第6話:第7病棟
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——鍵はかかっていなかった。
拍子抜けするほど、すんなりと入れてしまったことが、逆に不気味さを増幅させていた。
エレベーターが小さな電子音を鳴らし、ゆっくりと扉が開いた。
目の前には、薄暗いナースステーション。
デスクの上には書類の山と、点灯したままのモニターが並んでいる。
「……やばっ」
朝比奈は反射的に蓮司の腕を引き、扉の脇に身を寄せた。
廊下の奥で、どこかの自動ドアが開閉する音が微かに響く。
《生体反応、2〜3名。距離は15メートル以内》
光の声がイヤホン越しに低く響く。
続けて《防犯カメラを確認……映像は外部送信されず、内部モニター専用》と分析が入った。
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朝比奈は蓮司に「ここで待ってろ」と囁き、視界の死角を利用してナースステーション横の壁まで移動した。
中を覗くと、看護師2名が背を向け、モニターと書類に集中している。
モニターには廊下やエレベーターの映像が映っているが、配線は内部回線のみ。
机上には患者リスト——だが名前ではなく、番号だけ(R-07、R-12…)。
脇には薬剤カートも置かれている。
朝比奈は小型カメラを取り出し、素早く数枚を撮影した。
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次に三人は看護師の死角を抜け、奥の廊下へと進む。
廊下の両側には番号プレートだけの扉が並び、窓はカーテンで完全に覆われて中の様子は一切見えない。
足音と換気音だけが響く、異様に静かな空間。
蓮司は小声で呟いた。
「……ここ、本当に生きてる人がいるのか?」
返事はなく、朝比奈の表情も固いままだった。
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廊下の突き当たりには二重扉があった。
電子錠と物理鍵の二重ロック。
ドアの小窓から覗くと、窓のない無機質な空間が広がっている。
《薬剤保管庫と施術室の可能性があります》と光が分析する。
朝比奈は短く息を吐き、「今は無理ね」と低く呟いた。
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引き返そうとした瞬間、制限区域の脇の通路から「コン…ココン…コン」という乾いた足音が響いた。
蓮司の背筋がぞくりと震える。
(この音……昨日、窓の向こうで聞いたやつだ)
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角を曲がってきたのは——首をカクッと傾けた白衣姿の男だった。
照明の下、やつれた顔に眼鏡。
その目は焦点が合わず、奥が空洞のように見える。
(……出たぁ——!)
蓮司が声を上げかけた瞬間、朝比奈の手が素早く伸び、彼の口を塞いだ。
白衣の男は二人を視界に捉えると、ゆっくりと立ち止まる。
足音も呼吸も止まったような、異様な沈黙。
だがその目の奥に、一瞬だけ鋭い光が走った。
男が低く呟く。
「……お前ら、何者だ」
蓮司と朝比奈は答えられずに固まったまま、白衣の男を見つめ返す。
幽霊ではない——だが、確かに普通の病院職員でもない。
その時、廊下の奥から別の足音が近づいてきた——。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




