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第20話:嵐のあと

1/5 

院長室のドアが「ガチャン」と閉まった瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。


世界から重苦しい圧力が消え、空気が一気に軽くなる。


蓮司は肺の奥まで息を吸い込み、肩から重石を下ろしたように大きく吐き出した。


「……終わった」


自分でも驚くほど、声が震えていた。


窓際に立つ朝比奈は夜空を見やり、唇の端をわずかに持ち上げる。


「とりあえず、この鎖の一つは断ち切ったな」


光が静かに告げる。


《第7病棟での未承認治験は、これで確実に停止します》


2/5

セーフハウスのモニターに映る真鍋が、椅子から立ち上がった瞬間、足元が揺れたように見えた。


額に手を当て、しばらく何も言えずにいたが——やがて震える声を漏らす。


「……妹の時には、何もできなかった」


その頬を伝う汗が、涙へと変わっていく。


榊原はこらえきれず、唇を噛みしめたまま嗚咽を洩らした。


「……半年前のあの人の仇、やっと……」


机に突っ伏し、両肩を震わせて泣き崩れる。


その姿に、張り詰めていた空気がようやく溶け出していった。


3/5 

蓮司は画面に向かって静かに言葉を投げた。


「お前らがいたから、止められたんだ。……ありがとう」


朝比奈も短く「よくやった」とだけ告げる。


それ以上は言葉はいらなかった。全員が、この勝利の意味を理解していた。


4/5 

静まり返った空気を引き裂くように、廊下から慌ただしい足音が迫ってきた。


ドアが乱暴に開かれ、女子中学生の二人が転がり込むように飛び込んでくる。


顔は青ざめ、汗に濡れた頬を涙が伝っていた。


「お願い……聞いて……!」


一人が嗚咽まじりに朝比奈へしがみつく。指は震え、必死に爪を立てる。


「ユイナが……昨日まで一緒にいたのに……急に転院させられたの!」


もう一人が声を絞り出す。


「しかも……その病院にも“第7病棟”の噂があるの!」


5/5 

——頭を鈍器で殴られたような衝撃が、蓮司の脳天を直撃した。


視界が白く瞬き、膝が崩れそうになる。喉は締めつけられ、呼吸すら奪われた。


血の気が一気に引き、耳鳴りの中で心臓の鼓動だけが不気味に響く。


その震えは蓮司一人のものではなかった。


朝比奈も言葉を失い、青ざめた顔で固まっていた。


部屋全体に重苦しい沈黙が広がり、空気は鉛のように沈み込む。


モニター越しの真鍋と榊原までも、目を見開いたまま声をなくす。


安堵は一瞬にして砕け散り、残されたのは深い絶望の渦だった。


光のアイコンがわずかに瞬き、静かに告げた。


《……連鎖は、まだ終わっていません》


次の瞬間、空気が再び重く沈み込む。


断ち切ったと思った鎖の先には、さらに太く長い鎖が続いていた——。

※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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