第15話:残された影
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港のセーフハウス。
テーブルの上には、第7病棟から持ち帰ったデータと薬剤写真が並んでいた。
光のアイコンが揺らぎ、静かな声が囁く。
《スケールアイシステム、起動》
一瞬、照明が落ちたかと思うほど暗くなり——
次に目を開けると、壁も天井も消え去っていた。
夜空のような虚空に無数の光が瞬き、赤と橙の線が星座を編む。
それは機械の投影というより、夢の奥に踏み込んだ錯覚のようだった。
榊原は思わず息を呑んだ。
「……星座みたい……」
真鍋は低く笑みを漏らす。
「いや……星図じゃない。これは、生きた構造だ」
蓮司は拳を握り、短く呟く。
(——これが、全貌か)
光がそれらをホログラムで投影し、淡々と状況を整理する。
《解決済みの項目——》
青いリストが浮かぶ。
•第7病棟の存在確認(地下階・鍵付きエレベーター)
•未承認薬の有無(ヴェルジオン製薬の海外治験薬と一致)
• 搬送記録
「これだけでも、黒はもう確定だな」蓮司が低く呟く。
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続いて赤いリストが現れる。
《未解決の項目——》
•投与対象者リストの全容
•治験失敗例と被害者数
•未承認薬剤の投与記録リスト
•資金流入の痕跡
•堂島とヴェルジオン製薬の癒着経路
•政治的見返りの証拠
•未承認薬剤の配送ルート
朝比奈が顎に手を当てる。
「……つまり、まだ核心を突く証拠が足りないってことね」
その瞬間、光が赤いリストの中から三つの項目だけを強調表示した。
• 資金流入の痕跡
•堂島とヴェルジオン製薬の癒着経路
•未承認薬剤の投与記録リスト
《——この三点が揃えば、堂島義政は確実に落ちます》
室内に一気に緊張が走った。
「動機、手口、証拠。……全部揃うわけね」朝比奈が低く言う。
だが次の瞬間、光の声が少しだけ低く揺れた。
《ただし、これらはスケールアイシステムではでの届かないところにあります》
榊原は小さく頷き、唇を噛みしめる。
「つまり、現物の記録を入手するか院内サーバーに潜り込む必要があるってことはですね」
真鍋は険しい顔をする。
「——奪いに行かなきゃならないってことか」
蓮司は赤く光る三つの項目を睨みつけ、拳を固く握った。
「決まったな。次は——堂島の喉元を狙う」
光のアイコンが淡く明滅する。
《標的は院長・堂島義政。……次の一撃が、決定打になります》
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真鍋は椅子にもたれながら、目を閉じたまま口を開く。
「堂島は、外部じゃなく院内で指示を出すタイプだ。奴の部屋に、何か残ってるはずだ」
「院長室、ってことか」蓮司が眉をひそめる。
《リスクは最大値ですが、核心に最短で辿り着けます》光が補足する。
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朝比奈はゆっくりと椅子を回し、蓮司と真鍋を順に見た。
「やるなら一撃で。二度と同じルートは使えない」
蓮司が薄く笑う。「じゃあ、その一撃を当てる準備だな」
榊原も静かに言葉を足す。「……私も動きます」
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光が院長の顔写真と名前を大きく映し出す。
《東雲記念病院・院長、堂島義政——次の標的です》
港の夜風が窓を揺らし、重い沈黙が落ちる。
蓮司の瞳が鋭く光った。
「——ロックオンだ」
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東雲記念病院・院長室。
豪奢なデスクの前で、堂島義政が一枚の報告書を読み終える。
「……潜入?」
部下が小さく頷く。「第7病棟のデータが一部抜き取られた形跡があります」
堂島は静かに立ち上がり、窓の外の夜景を見下ろした。
「構わん。……どうせ、網はすでに張ってある」
机の電話を取り、短く命じる。
「——次は、こちらから仕掛ける」
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




