第12話:鍵を握る者
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港から戻った蓮司たちは、真鍋をセーフハウスのソファに座らせた。
部屋の隅では光のアイコンが淡く揺れ、機材のファン音が低く響く。
真鍋は呼吸を整え、ポケットから古びたカードキーを取り出す。
「これが第7病棟の制限区域の物理キーだ。ただ……これだけじゃ開かない」
朝比奈が眉を上げる。
「暗証コードが必要ってこと?」
「それだけじゃない。入退室記録を改ざんする手順も必要だ。俺はそれを覚えてる」
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真鍋の説明によれば、制限区域の入口は二重ロック(カードキー+暗証コード)。
コードは定期的に更新されるが、更新情報を引き出す裏回線の場所を知っているという。
「そこまで行くにはナースステーションを経由する必要がある」
真鍋は、そこで見た被験者たちの様子を淡々と語った。
番号だけで呼ばれる患者、点滴痕とは別に複数の針跡、そして監視カメラの死角に押し込まれる姿——。
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机の上に置かれたUSBメモリを、光が解析する。
ディスプレイには薬剤コードと搬送リストのデータが浮かび上がった。
《このコード、ヴェルジオン製薬の海外子会社の治験薬と一致します》
真鍋は小さく頷く。
「国内未承認の薬だ。第7病棟で先行実施してる」
光が続ける。
《承認前データを握ることで政治的・金銭的な見返りを得ている人物が、東雲記念病院院長の堂島義政です》
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光が病院の構造図と職員動線を投影する。
夜間に制限区域まで侵入するルートを洗い出し、三人は机を囲んだ。
蓮司は鬱の感覚を活かし、巡回員の呼吸や足音で間合いを測る役。
朝比奈は前衛、真鍋はコード解析と内部操作を担当する。
《物理潜入と電子攪乱を同時に行えば、発覚までの時間を最大限稼げます》
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その時、光が暗号化メッセージを受信した。
《送信者は……“サイレント・ベル”。さとり同盟の会員です》
真鍋がわずかに目を見開く。
「……同盟? あの港湾ネットワークか」
光が補足する。
《匿名で情報を持ち寄る分散型ネットワーク。港や病院に潜む人々が、自らのリスクを承知で繋がっています》
真鍋は低く唸った。
「内部掲示でも名前を見たことがある。医療事故の匿名通報者リストに混じってた……」
一拍置き、真鍋の声は少しだけ柔らかくなる。
「少なくとも、患者を守ろうとする側の人間だ。信じていい」
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




