表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

第10話:水路からの影

1/7

港の夜は、昼よりもさらに音が少ない。


波がコンクリート壁に吸い込まれ、かすかな返し波だけが船底を叩いていた。


小型ボートの舳先には朝比奈、中央に蓮司、後方には光を搭載したタブレットが淡く光っている。


《巡回パターンと監視カメラ位置を表示します》


タブレットの画面に、倉庫周辺の簡易マップが浮かび上がった。


赤い点は警備の巡回、青い点は監視カメラ。


朝比奈が短く息を吐く。


「よし、行くぞ」


2/7

船外機は最低出力。モーター音は波音にかき消される。


空気は冷たく湿り、鉄と油の匂いが鼻を刺した。


蓮司は目を閉じ、耳と肌だけで周囲を探る。


——波間に混じる足音。


——遠くで鉄扉が開閉する音。


——誰かの喉が乾いて鳴る小さな癖。


「この先に二人……奥の角に一人」


光が静かに囁く。


《あなた、私のセンサーより速い》


蓮司は薄く笑った。


「じゃあ、このまま出口まで持たせろ」


朝比奈が淡々と返す。


3/7

倉庫の裏手にボートをつける。


膝までの水をかき分けて搬入口の足場へ。


錆びた鉄扉は鍵がかかっていなかった。


扉を押すと、内部はほとんど照明がなく、闇に沈んでいた。


木箱やパレットが積み重なり、通路は迷路のように塞がれている。


コンクリートの壁はひどく冷たく、足音さえ吸い込まれる。


蓮司は胸の奥にじわりと重さを覚え、呼吸を浅くする。


(……やっぱり、この静けさは嫌いだ)


朝比奈が先を行く。


足取りは音を立てず、影のように滑らか。


光がイヤホン越しに囁く。


《現在の巡回員は北側。ここから三分は安全です》


5/7

木箱の影を抜ける瞬間、何かが走り去った。


小さな黒い影——ネズミ。


蓮司は反射的に肩をすくめる。


「ビビるなよ」朝比奈が振り返らずに言う。


「お化けよりマシだろ」


「……いや、どっちも嫌だ」


短いやり取りが、張り詰めた空気をほんの少しだけ和らげる。


6/7

通路の奥に、不自然な隙間があった。


そこだけ木箱の積み方が違い、風が抜けている。


蓮司は思わず立ち止まる。


「……この向こう、誰かいる」


《確認。心拍反応一名、微弱》光の声が低く響いた。


7/7

暗闇に沈むその先で、扉がわずかに開いているのが見えた。


そこから漏れる細い光の筋。


朝比奈が視線で合図する。


蓮司は喉を鳴らし、拳を握りしめた。


——その部屋に、真鍋がいる。

※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ