進級
春休みが終わって、僕らは3年生に進級した。学年の玄関前で、新しい組を確認した。
「お前、イクラと同じクラスになるんか。騒がしくなりそうやな。」
一緒にいたハゼがそう話し、僕もそれに同意するのだった。
「ハゼとは隣のクラスなんか。一緒がよかったけど、会いやすくなるな」
僕はそう話した。
そうして2人して新しい教室に入った際に、僕は驚いて言葉を失った。僕の隣の席が由嘉さんだったのだ。考えてみれば最初の席は出席番号順になり、由嘉さんの名字が金子で僕の名字が朝倉だから不思議ではない。
席に着いたがなんだか気まずくて、由嘉さんに話しかけるべきか、話す場合何を話題にすべきか迷った。
「りーんちゃん‼︎」
その時、後ろの席からイクラがそう叫び背中をつついてきた。
「うおっ!」
驚いた僕は思わずそう叫んだ。
「由嘉ちゃんの隣なんやね。おめでとう」
イクラはそう言ってきた。何がおめでとうだと反論したかったが、隣に由嘉さんがいる前で口にできず、
「ああ、ありがとう」
と返すしかなかった。そのやりとりに、由嘉さんがクスリと微笑んでいた。
僕は今でもそんな由嘉さんのことが好きだが、振られてしまった。だから、告白する前の関係に戻りたい。由嘉さんは、変わらず僕と話してくれるだろうか。
「由嘉さん、1年間よろしく」
僕は勇気を出して、由嘉さんにそう告げた。
「こちらこそよろしく」
そう返してくれた由嘉さんの笑顔は、1年前と同じだった。
始業式の後に、他のクラスになった凛子が僕のところにやってきた。僕は、その理由がわからなかった。
「凛太朗、大変なことになってへん?」
凛子が心配そうにそう聞いてきた。
「3組の教室の中を見て。『元カップルが隣の席になった』って騒いどるやつらがおって。新しい組を見て、そうなるかもしれへんとは思ってたんやけど」
凛子がわざと大声でそう話したので、近くで騒いでいた女子達の顔色が変わった。
「鈴木さん、何言っとんの!」
「余計なこと言わんといて」
その女子達はそう噛み付いたが、凛子は毅然と
「さっきまでその話しとったやん」
と反論した。
女子の一人が負け惜しみのように
「鈴木さんって、朝倉君のことが好きなん?」
と聞いた。凛子は態度を変えずに
「ああ、そういうことにしといて!」
と答えたが、それが嘘ということは知っている。そんな凛子に対して僕は、
「僕の方は何も言われてへんから安心して。イクラは後ろから背中をつついておめでとうなんて言ってきたけど」
と話した。それに対して凛子は
「イクラもアホやな」
と呆れていた。
英語の授業ではよく「隣の席の人と会話の練習をしてください」ということがあった。由嘉さんと話せることは嬉しいが、なんだか複雑な気持ちになってしまった。せっかく由嘉さんの隣になれたのにモヤモヤしてしまうくらいなら、告白しなければ良かったのだろうか。そう思い、一瞬告白の後押しをしたハゼを恨んだ。
しかし、そんな逆恨みをしても仕方ない。失恋したのはハゼのせいではなく由嘉さんに振り向いてもらえなかった自分のせいだ。
もし時間を戻せてもっといい男になったら、由嘉さんと付き合えただろうか。いや、やっぱりダメだろうな。そんなことばかり考えてしまう。本当に、こんな自分がみっともない。
このモヤモヤから解放されるために、早く席替えをしてほしいと思うのだった。
新学期を迎えた2週間後の昼休みに、偶然サッカー部の同級生たちの会話を耳にすることがあった。
「金子さんが朝倉と別れたらしいから告白したら振られた」
「あのイケメンを振った女の子やからな」
「そりゃ、朝倉がダメなら俺もダメか」
「金子さんって、男の理想が高いのかな」
本当に由嘉さんは男子からモテているんだな。由嘉さん自身にその自覚はないだろうけど。にしても、男子達の間でも由嘉さんと僕が付き合っていたことになっているのか。一緒に図書当番の仕事をしていただけなのに。
ちなみに僕は今年も図書委員に入って委員長になったが、一緒に当番の仕事をしているのは同級生の男子なので、そのような誤解を招くことはない。
その日の部活帰りに大和が僕らに
「俺、彼女ができた」
と明かした。するとイクラは
「ええなー。俺らみんな彼女いたことないのに」
と叫んだ。
ハゼは大和に
「どんな子?」
と聞いた。
「今、俺のこと待っとる」
大和はそう答え、歩く速度が上がった。
そうして着いた駐輪場に立っている女の子が、僕らに気付き笑顔で手を振った。
「大和君、お疲れ様。あ、先輩方も」
大和の彼女と思われる女の子は、よく笑う可愛い子だった。
「紹介しよう。俺の彼女の河原撫子や。俺はなっちゃんって呼んどる」
大和はそう話した。
「初めまして。大和君のクラスメートの河原です」
カワラナデシコ⁉︎僕はその名前に驚いた。
「え、大和と撫子⁉︎」
他の部員達も、2人の名前がピッタリ合いすぎていて驚いていた。
「撫子ちゃんも、何でまたこんなイタズラ小僧と付き合おうと思ったん?」
イクラが不思議そうに聞いた。いや、イクラも似たようなもん…というか、容姿だけなら大和より見劣りすると思うが。
「なんか、大和君って面白いなと思って」
撫子ちゃんがそう答えた。
「これからイタズラに気を付けろよ」
ハゼがそう釘を刺した。
「彼女は元々兄ちゃんのことが好きやったんやけど、告白する勇気がないって俺に相談してきたから、『じゃあ、従弟の俺じゃあかん?』って告白しちゃった」
という大和の話に僕たちは
「大和、すごいな」
と呆れながらも感心した。
「撫子ちゃん、本当に良かったん?」
大護がそう聞いた。
「凛太朗先輩は年上だし、私のことをよく知らないと思うから。でもやっぱりかっこいいです」
撫子ちゃんが僕を見てはにかんだ。
まさか、自分のことが好きという後輩の女子がいるとは思わなかった。確かに撫子ちゃんに告白されても断っていたが、大和が少し羨ましい。挨拶がちゃんとできて明るいいい子が大和と付き合うなんて。
「大和に先を越されちまったな」
「本当、今年のクリスマスは俺らだけでシングルベルを鳴らそうぜ」
「おう、その方が気楽やよ」
年下の大和に彼女ができて以来、僕らは今まで以上に結束していった。野球部の3年生は全員彼女がいたことがないのだ。そのため、彼女のいる大和を羨ましく思いながらも、自分たちはフリーで仲良くやろうぜという結果に落ち着いたのだ。羨ましくても大和に嫌がらせはしていないので、こんな僕らをどうか許してほしい。




