告白
文化祭の1週間後の部活帰りにハゼに
「お前、1組の金子さんと付き合っとるって本当か?」
と聞かれた。
「付き合ってへんよ。誰やよそんなこと言ったんは」
僕はそう聞いた。
「俺らのクラスの女子がそう騒いで、俺に真偽を聞いて来たから。もちろん、『俺も知らん』って答えたけど」
ハゼはそう答えた。ハゼは2組だったな。もしかして、以前図書室で騒いでいたヤツらか?
「そんで、本当のところはどうなんやよ⁉︎」
イクラがこの話に食いついてきた。僕は腹を括って
「金子由嘉さんと付き合ってはいないけど…本当は付き合いたいと思う」
と打ち明けた。その話に、イクラの顔がにやけて
「いつからそう思っとったん?」
と聞いてきた。
「はっきりそう思い始めたのは夏休み前」
そんな話をするだけでも恥ずかしいのに、イクラはさらに
「由嘉ちゃんとキスしたい?」
なんて聞いてきたから、真っ赤になってしまった。
「アホなこと言うなよ。まだ付き合ってもいないのに。そりゃ、できることならしてみたいけど」
僕の口は、僕の言うことを聞かずに余計なことを言ってしまった。もう遅い。
「道理で硬派やった凛太朗が大人っぽくセクシーになったんか!」
イクラがそう興奮した。そしてハゼも
「凛太朗、あんなにクールやったのに優しくなったと思ってたらそんなことでかー!」
と納得していた。
「僕は大人っぽくもセクシーにも優しくもなってへん!」
僕はそう反論したが、部員たちは
「いやいや、自分では気付いてへんだけやよ」
「やっぱ恋をすると人は変わるんやな」
と騒いでいた。もうその場から離れたいほど恥ずかしかった。
「由嘉ちゃん可愛いもんな。キスしてみたいよな」
イクラがまたそう言ってきた。
「声がデカいって」
僕がそう言ってもイクラは聞かず終い目には
「なあ凛太朗、俺を由嘉ちゃんやと思ってキスしてみろよ」
なんて言ってきやがったから
「できるかバカタレー!」
と叫びながらイクラを叩いてしまった。
しかし、由嘉さんを好きになってから変わったのは事実だろう。その前の自分は硬派でクールに振る舞っていたわけではないし、今の自分が大人っぽくセクシーとも優しいとも思わないが、由嘉さんといる時の自分は、いつもの自分ではないように思う。由嘉さんが相手だと、自然と優しくなってしまうし、いろんなことを知りたいと思う。
由嘉さんと過ごす時間はこの上ない幸せだから、ずっと由嘉さんと一緒にいたい。だから由嘉さんと付き合いたい。もし付き合えたらキスしてみたいと思ったことも実際ある。
けど、由嘉さんはそうなったら迷惑に思うかもしれない。僕のことが好きじゃなかったら、そんなアホみたいな夢叶いっこない。
「付き合いたいなら告白しろよ。妄想してるだけでも気持ち悪いやろ」
イクラの悪ふざけが少し落ち着いてから、ハゼにぽんと背中を叩かれた。
「でも、もしダメやったら?」
僕は弱気になってそう聞いた。
「その時は、俺が代わりに付き合って…」
イクラがまたそうアホなことを言い出したが、ハゼがその口を塞いで
「そんなこと気にするな!」
と言ってくれた。
そう、僕は今まで好き、付き合いたいと思うばかりで告白から逃げてきた。本当に付き合いたいなら覚悟を決めないといけない。けど、もし失恋しても気まずくならないような日を考えて、13日の金曜日まで待った。
「由嘉さん、今日の放課後、図書室に来られる?」
図書当番の日に、由嘉さんにそう聞いた。
「ええ、できるけど」
由嘉さんはすんなりそう答えてくれた。告白はできると決まったから、僕は放課後までずっとドキドキして落ち着かなかった。
そして放課後がやってきた。僕は由嘉さんに何を言うべきか迷った。
「僕な、由嘉さんと一緒に図書当番の仕事ができて良かったって思っとるんや。ありがとう」
思い口を開き、不自然にそう話した。
「そう思ってもらえるなんて嬉しいな。私の方こそありがとう」
由嘉さんがそう微笑むので、僕はさらにドキドキした。
「本当は、来年も一緒に当番を続けたいって思っとるんや」
僕は緊張しながらそう告げた。
「どうして?」
由嘉さんが不思議そうに聞いてきた。見つめられてとてもドキドキしたが、覚悟を決めて告げた。
「由嘉さんのことが好きやから。付き合ってほしい」
僕の言葉に、由嘉さんは驚いて赤くなってしまった。そして、しばらくの沈黙の後に
「私も、一緒に図書委員の仕事ができて良かったと思うけど、まだ誰かと付き合うとか考えたこともなかった。ごめんなさい」
と答えた。
そうだ、由嘉さんは好きな男はいないって凛子が話していた。その状況は変わらなかったようだ。結局、僕は由嘉さんが恋をするような男ではなかったということだ。
「どうしたん凛太朗、食が進まないなんて珍しい。まだおかわり3杯目なんて」
その日の夕食のとき、姉さんにそう心配された。僕はただ一言
「振られた」
としか口にできなかった。
「そっか、辛いね」
姉さんはそれだけ言って、僕のことを放っておいてくれた。
悲しかったが、涙は流れてこなかった。しかし、心は沈んで食欲はなくなり、頭はぼーっとしてしまった。おかげで体重が4kgほど減った。由嘉さんは何も悪くない。ただ僕に対して恋心を抱いていなかっただけだ。そんなことばかり考えている。これならいっそ、思い切り泣ける方が楽かもしれない。
「嘘やろ⁉︎お前が失恋するなんて」
部活仲間たちは、僕の失恋に驚いていた。
「本当やよ。『誰かと付き合うとか考えたこともなかった』って言われた」
僕はそう話した。
「こんなイケメンでも失恋するのかよ⁉︎」
イクラはそう叫んだ。
「僕はイケメンやないし、由嘉さんが面食いやと思う?」
僕はそう口にした。
「由嘉ちゃんが好きな男って、狼男みたいな男やろ?」
イクラはまたそんないらん話をしていた。ああ、吸血鬼ではなくて狼男みたいな男が好きなのか
「って、なんでそんなこと知っとるんさ⁉︎」
僕は今更驚いてそう聞いた。
「え、俺の勘やよ」
イクラはのほほんとそう答えた。なんだ、それだとあてにならないや。そして他に気になることがあった
「それよりイクラ、何で由嘉さんのこと親しげにちゃん付けしとるんやよ?」
僕はイクラにそう聞いた。それに対してイクラは
「去年のクラスメートやったから」
と答えた。と言うことは、文化祭の図書委員会の展示の時から由嘉さんのことを知っていたのか。僕の気持ちに気付いていたのだろうか。
「だからって簡単にちゃん付けするなよ」
僕は何だか悔しくてそう言った。
「だって可愛いんやもん」
イクラはそう話したが、そんなの理由になっていないだろ。
「まさかイクラ、由嘉さんのこと…」
僕は思わずそう聞いた。
「好きやよ。好きか嫌いかで言えば。まあ、凛太朗みたいにキスしてみたいと思ったことはなかったけど」
イクラはそう答えた。しつこいなその話。
「でも、凛太朗はモテるから、彼女を作ろうと思えば作れるのに」
部員の大護がそう口にした。
「それはいい。好きでもない女とズルズル付き合いたくなんかない」
僕は毅然とそう話した。
「きゃー、りんちゃんカッコいいー!」
イクラがまたアホなことを言ってきた。
「誰がりんちゃんやねん!」
由嘉さんに振られたことは、その翌日の昼休みに凛子にも告げた。
「そっか、残念やね」
凛子はそう話すだけで、騒いだりはしなかった。
「でも凛太朗、これから気を付けた方がええで」
凛子がそう告げた。
「何を?」
僕は、何の話か全くわからなかった。
「女子達は、凛太朗が由嘉ちゃんと付き合っとると思ってたわけやから、そいつらの中では2人は別れたことになるんやで。それにつけ込んで、凛太朗にアプローチする女子がおるかもしれへん」
凛子はそう話した。
「まさか」
僕はそう返したが、凛子は
「凛太朗はモテるって自覚がないね」
と呆れていた。
そして、凛子の予想は的中した。
「朝倉君、金子さんと別れたんやって⁉︎」
由嘉さんに振られた翌週の休み時間に、女子達に囲まれそんなことを聞かれた。
「僕、由嘉さんと付き合ってなかったけど」
僕がそう話すと
「そうなん!なんや。あの子がおるから近付きにくかったのに、もっと早くに告れば良かった」
なんて言葉が出てきた。僕は、その由嘉さんを邪魔者扱いする表現に腹が立った。
「朝倉君、アタシと付き合ってよ!」
他の女子にそう言われたが、僕は
「断る」
と即答した。
また、他の日に
「朝倉君、金子さんに振られたんやって?ドンマイ!」
と笑いながら話す女子もいた。そして
「あんな女子のことは忘れて、うちと付き合わへん?」
と告げた。この時も僕は
「嫌や」
とすっぱり返した。そしてまた腹が立つのだった。
本当は失恋がものすごく辛いのだ。男のプライドがあるから表に出さないようにしているだけだ。この場合は、弱みを見せたくないということだ。
「男だから泣くな」と言われて我慢するのではなく、「男だから泣きたくない」から我慢するのだ。でも、そんなことに気付く女子は少ないだろう。だから、僕の気持ちも考えずヘラヘラと笑顔で近寄ってくる。それで「付き合って」なんて言われて誰がOKするだろう。
恋愛は、そんなふわふわした気持ちではしてはいけないと思う。あれこれと首をつっこむものではないし、相手に好かれるための駆け引きもしたくない。当然横取りなんてルール違反だから許せない。本当に好きな人に、ありのまま向き合うものだ。今回は失敗したけど。
ただ、どうしても由嘉さんに好かれようとも、無理に付き合おうとも思わなかった。それは、そこまで熱くなっていなかったからだろうか。
そんなわけで、こんな恋愛観を持っていて由嘉さんのことが忘れられない僕は、次の恋をしようとは思えなかった。もう、これが最初で最後の恋かもしれない。




