文化祭
夏休みが終わった後は、学校は文化祭一色になる。野球部としての出番はないが、図書委員会では各自のおすすめの本をポスターに書いて紹介することとなった。
僕は好きな本が多くて、どの本がいいだろうと迷った。みんなが読みやすくて心に響く本を紹介したい。そう張り切るのだった。
そして、由嘉さんが何を紹介するかも気になった。ポスターは個別に作成することもあり、面と向かっては聞けなかったが、当日の展示までの楽しみにしておこう。
それに、由嘉さんは吹奏楽部に所属しているため、そちらの発表に向けた準備が忙しいようだった。それでも図書当番の仕事で会えることが嬉しかった。そして、吹奏楽部の発表も密かに楽しみに思うのだった。
そうしてやって来た文化祭当日、午前は吹奏楽部の発表があった。由嘉さんはトランペットを担当しているとこのとき初めて知った。
吹奏楽部は野球部の応援に来てくれることもあったが、試合中に演奏者まで見る余裕はなかったので、図書委員会になるまで由嘉さんのことを認識していなかった。
野球の試合をしている時も聴いていたはずだがこうして改めて聴くと、吹奏楽部の演奏は一体感があって心地いい。曲目も野球の試合の時とは異なり、普段耳にするような楽曲も多く演奏していたりと、幅が広かった。それでもやっぱり由嘉さんばかり目で追ってしまうのだった。
そうして由嘉さんを見ていると、一生懸命演奏する姿だけでなく、後輩に優しい一面も窺えた。自分の知らなかった由嘉さんの一面を知れて嬉しいと思う一方、より由嘉さんと過ごす時間がある吹奏楽部員が少し羨ましいとも思った。
対照的に、由嘉さんも野球部員として活動する僕を見る機会もあっただろうかと少し考えた。しかし、僕が試合に集中して由嘉さんに気付いていなかったように、向こうも演奏に集中して選手を見る余裕はなかっただろうと思うのだった。そもそも由嘉さんが僕のことが気になっている証拠なんてどこにもない。見ていてほしいと思うことはなかったが、僕が一方的に由嘉さんを目で追っているだけと思うと、なんだか寂しく思った。
そうして午前の発表が終わり、昼休みに入った。昼食の後にハゼが僕の教室に来て、
「図書委員会の展示を案内してくれよ」
と頼んできた。
「ええよ。でも何か、恥ずかしいな」
僕はそう返した。
「恥ずかしがることないやん。あんま本とか読まへんから、この機会に読んでみようと思ったし」
ハゼはそう続けた。
そうしてハゼと一緒に図書室に向かったが、僕は由嘉さんの展示が気になってしかたなかった。
「へえ、この本、俺も名前は聞いたことある。おすすめのポイントも整理されてて読みたくなるな」
ハゼは僕が作ったポスターを眺めて、そう話した。
「ありがとう。ぜひ読んでみて」
僕はそう嬉しくなった。そして由嘉さんの作ったポスターを探した。
それはさすがに怪談ではなかったが、妖怪が登場する小説だった。怪談は好き嫌いが別れるから、おすすめとしては読みやすい作品を選んだのだろう。その配慮も由嘉さんらしいと思った。そして、その本を読みたいと思うのだった。
「何見とんの?」
ハゼにそう聞かれはっとなった。
「いや、何でもない」
僕は慌ててそう返事をした。
「そっか、他の生徒の展示を見るのは、凛太朗も初めてなんやったな」
ハゼはそう勝手に納得してくれたので、僕はほっとした。由嘉さんへの想いは、凛子以外の誰にも打ち明けてこなかったから。
「りんちゃん、展示を見にきたよー!」
イクラが騒がしくそう言いやって来た。
「誰がりんちゃんや。図書室で大声出すな」
僕はそう言った。しかしイクラはそれも聞いていたのかいないのか、
「へー、この本がおすすめなんや。俺も読んでみよっかな」
とデカい独り言を口にした。そして由嘉さんの展示を見て
「妖怪の出てくる本のおすすめもある!面白そうやな。りんちゃんはこれ読んだことある?」
と聞いてきた。
「ないけど、興味はある」
僕は冷静を装いそう答えた。
「へえ、じゃあこれを推した人とも気が合いそうやね。あ、これ書いたん女の子やん!」
イクラは僕の気持ちを知ってか知らずか、無邪気にそう話した。
「そ、そうやね」
僕はそう少し動揺した。
そうして振り向くと、いつの間にか凛子まで来ていた。ただ凛子は揶揄ったりせずに、静かに笑うだけだった。そうだ、僕の思いを後押ししてくれる人がいるのだ。そろそろ自分の気持ちを整理するためにも、一歩踏み出さないと。そう思うのだった。




