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由嘉さんの好きなもの

 期末テストも終わり、本格的に暑くなり始めた7月。もう夏服でないと過ごせない季節だから、由嘉さんも僕もとっくに夏服を着ている。由嘉さんは夏服がよく似合っていて、僕はなんだかドキドキしている。

 涼しい図書室は、一時期ほどではないもののよく人が集まる。そんな中で僕らは当番の仕事をしながら読書をしている。そして最近の由嘉さんは怪談をよく読んでいる。

「由嘉さんって、怪談とか読むんや?」

気になって、思わずそう聞いた。

「うん、大好き。特に夏になると読みたくなる」

由嘉さんはそう答えた。

「へえ、ちょっと意外。そんなのって苦手かと思ってた」

僕はそう話した。

「本当は怖いって思うけど、あのゾクゾクっとした感じが好き」

由嘉さんはそう話してくれた。僕は続けて

「そうなんや。じゃあ、古典も読んでたから、四谷怪談や怖い落語も好き?」

と聞いた。

「大好き。あの日本の怪談によくある、悪い人が呪われて復讐されるのがゾクゾクするだけやなくて、清々する。私って意地悪かな?」

由嘉さんはそう話した。

「いや、わかる気はする」

僕は由嘉さんにそう共感した。

「でも、少女漫画のホラーや小学校の図書室にあった怖い話やと物足りへん」

由嘉さんはそんな話もした。

「確かに、あれは怖くないよな」

僕は納得した。

 怪談の話をしている由嘉さんはとても楽しそうだ。僕は怪談に詳しくないから頷くことしかできないが。そして気づいた。由嘉さんは僕なんかの100倍くらい、怪談が好きなんだと。それでも構わなかった。楽しそうに話している由嘉さんはとても可愛いから。まあ、怪談の話でというところはおかしい気もするけど。


 それから、由嘉さんの持ち物をよく見ると、通学カバンに小さなキャラクターのぬいぐるみを付けていると思っていたのに、ミステリアスな感じの黒猫のキーホルダーを付けていた。文房具のデザインもゴツいドクロや十字架でとても女の子の持ち物には見えなかった。

 黒猫はまだ可愛いが、ホラーやハロウィンのイメージで付けているのかもしれない。考えてみれば、由嘉さんは図書室に来ていた女子達がキャラクターの話で盛り上がっていた時も、首を傾げていた。


 それなのに僕のクラスでは、

「金子由嘉はぶりっ子」

「朝倉君に媚びている」

と言った女子の話を耳にすることがあった。

 しかし僕は、そんな噂には騙されなかった。由嘉さんは素直だし優しいし、容姿だけでなく言動も可愛い。図書委員会の仕事で他の生徒と接するときも、僕といる時と態度は変わらないし、人の悪口も言わない。それが全て計算と言うには無理があるだろう。由嘉さんを悪く言うように人を貶めるような話をする方がずっとか意地悪だ。

 ただ、由嘉さんの意外な趣味には驚いた。しかしそれで由嘉さんを嫌いになったわけではない。由嘉さんのホラー好きも一つの個性のように思う。

 そして気付けば僕も怪談を読むようになっていた。由嘉さんの真似をする必要はないのに、どうしてだろう。ただ、由嘉さんが話していたように僕も怪談を読んでゾクゾクしたが、この感覚を好きにはなれなかった。

 そして気付いた。僕は由嘉さんとは対照的に、ホラーより由嘉さんのことが好きなのだと。きっとこれが、僕の初恋と呼べるものなのだろう。

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