冬休み
今年のクリスマスイブは、元野球部の仲間と過ごすことになった。会場は、1番広い岩澤の家だ。この日のために、家を空けてもらっている。
「今日はクリスマスイブやから、受験のことは忘れようぜ!」
ハゼがそう叫び、みんな
「イェーイ!」
と叫んだ。
「どうせ前期はダメ元や!」
「イェーイ!」
「もう受験なんてどうでもええ!」
「イェーイ!」
「受験受験って、やっぱり気にしとるやん」
僕の言葉に、みんなはっとなってしまった。
「そうやな。気を取り直して、今日は楽しむぞー!」
ハゼの言葉に、また一同
「イェーイ!」
となるのだった。
僕らは前もって何をして遊ぶか決めていた。まずは椅子取りゲームをした。廊下に椅子を4つ並べた。ちなみに集まっているのはハゼ、イクラ、上島、大護、岩澤、僕の6人だ。
「じゃあ、みんなで歌おうか」
ハゼがそう言い出したが、上島が
「何の歌?」
と聞いた。誰もそのことを考えていなかったのだ。
「じゃあ、凛子の寝正月の歌」
ハゼはそう言い出した。昔から凛子が口ずさんでいたあの替え歌のことか。
「もう正月⁉︎まあいいか」
一同納得して歌い始めた。
「もーいくつ寝るとー寝正月。寝正月には餅食って、グースカ眠って過ごしましょ。はーやく来い来い寝正月」
歌いながら椅子の周りをぐるぐる回って、歌い終わった途端に椅子に飛びついた。僕は、イクラのデカい尻に弾き飛ばされて座れなかった。
「くっそー」
そうして座れず悔しそうにしていたもう一人はハゼだった。
「じゃあ、2人は罰ゲームな」
岩澤がそう告げた。
「15秒間ファーストキス!」
イクラがそう揶揄ってきたので、すでに嫌な気分になった。
そう、2人が椅子に座れないようにしたのは、この罰ゲームのためだったのだ。にしても内容がひどい。ファーストキスの相手が男だなんて!
「早くキスしろよー!」
周りから急かされたので、目を閉じてハゼとキスをした。
頑張れ僕。目を閉じているから相手の顔は見えない。相手は女の子だと思えばいいんだ。
「いーーち、にーぃ、さーーん」
気のせいだろうか、イクラが数えている1秒1秒が長い気がする。このままでは息が続かなくてって死ぬと本気で思った。
「じゅうごーーーー」
15秒目長過ぎや!
「ぶはっ」
やっとハゼの唇から離れられた。どんなに自分に言い聞かせてもファーストキスの相手はやっぱりハゼだった。
「にしても凛子の寝正月の歌、面白いな」
ハゼが話題を逸らした。
「あいつ、冬眠するもんな。今頃淳平君と漫画読みながらゴロゴロしとるんやろな」
僕がそう話すとイクラに
「大和はやっぱり撫子ちゃんと一緒に?」
と聞かれた。
「うん、2人でサイクリングに行くって張り切っとった」
僕がそう答えると岩澤は
「へえ、意外と地味」
と言った。しかしイクラは
「うらやましー!」
と叫んだ。
「別にええやん。彼女いなくても仲間はおる。気楽でええやん」
ハゼがイクラをそう慰めた。
「そうや、女子の前では言えやんこと言い放題や」
「自由に弾けられるの最高!」
「男子会イェーイ!」
「彼女なんかいらーん!」
みんな口々にそう叫んだ。もうヤケクソだ。これは半分本音で半分負け惜しみだ。
「よし、こうなったらやけ食いや!」
岩澤がそう切り出し、昼食にした。
メニューはそれぞれ持参するものを決めて、人数分用意している。僕は2種類のクリスマスケーキを手作りして持参した。ジュースも何種類かあるし、メニューもチキン、フライドポテト、うな丼⁉︎など様々だった。
「誰やうな丼持ってきたんは⁉︎」
大護が聞くと、イクラが「はーい!」と手を挙げた。
「何で鰻?」
ハゼが聞くとイクラは
「俺が好きやから。うちの隣の鰻屋さんにお願いした」
と答えた。
「まあええか。カンパーイ!」
まずは全員グラスにジンジャーエールを注いで乾杯した。みんな飲み会気分だ。
「なあ、凛太朗の理想のクリスマスイブってどんな?」
鰻に食いついているハゼにそう聞かれた。
「料理上手な彼女に『イブは私の家に来て』って招待されて、手作りのメニューやケーキを一緒に食べたい」
僕はそう話した。
「やっぱり、由嘉ちゃんと過ごしたい?」
イクラがそう聞いてきた。それも否定はできないが、答える気になれなかった。
「そんなイクラはどうなん?」
僕はそう聞き返した。
「俺は可愛い彼女と遊園地に行きたい。冬休みやからお化け屋敷はないやろけど、ジェットコースターに乗って2人で叫んでその後彼女に『怖かったー』ってひっついてきてほしい」
イクラはそう話し、隣にいる大護にひっついた。
「何するんや!」
大護がそう驚いた。
しかし、イクラは絶叫マシンが苦手じゃないか。絶叫する顔や声にドン引きされないか?と思った。
「でもやっぱり彼女ほしいな。ああ、朝倉が羨ましい」
岩澤がそう呟いた。
「僕、モテてへんよ?失恋したことはあるけど彼女いたことないし」
僕はそう返した。
「もしかしてお前、バレンタインデーにもらうチョコレート、全部義理やと思っとる?」
ハゼにそう聞かれた。
「あれは、僕の食欲を知っとるからやろ?それに、ハゼも小学生の時にチョコレート貰ったやん?」
僕はそう話した。
「ああ、1番嫌やったヤツからな。全然嬉しくなかった」
ハゼはそう振り返った。小学校3年生の時に苦手だった女子からチョコレートをもらったことは、むしろトラウマになっているようだ。
「って、やっぱり寂しい話題になっとるやん!」
ハゼがそう続けた。
「もうええやん。開き直って自分の不幸を叫ぼうぜ」
大護がそう提案した。
「俺、小さい頃はいつかマイケルジャクソンになれると信じとったのに、今はただの中学生や!」
「成績がもっと良かったら志望校も余裕で入れるって言われたのに!」
「もっとイケメンやったら女子からモテたのに!」
「もっと足が速かったらレギュラーになれたのに!」
「英語が得意やったら外国人とも仲良くなれたのに!」
「日本人らしい顔やったらもっとコンプレックスが少なかったのに!」
そう叫び僕らはやけ食いし、あっという間に完食してしまった。そして、満腹感から全員眠ってしまった。
そして目を覚ましたらもう3時だったので驚いた。
「え、もうおやつの時間やん!」
僕は思わずそう言った。
「おやつって、さっきクリスマスケーキをみんなで2ホール完食したやん」
岩澤にそう呆れられた。
「じゃあ、自分の家でおやつやな」
ハゼがそう言い、解散となった。
サンタクロースの正体を知っているのでプレゼントをお願いせずにやってきた12月25日、僕がもらったクリスマスプレゼントは受験勉強という現実だった。
本当は第一志望校の合格通知がほしいけど。いや、その前に絶対に大丈夫という学力と自信からか。どちらにしても目には見えないしお金では買えない。そう、それを手にするには自力で勉強するのみだ。
僕は、クリスマスのるんるん気分を捨てて勉強机に向かった。冬休みの宿題、受験用の教材、願書を出した私立高校2校の過去問集、県立高校の過去問集。しておきたいものが多過ぎて、少しきつめな計画を立てないと追いつかない。
冬休みの宿題はもう終わっているが、受験の教材は量が多いのでやってもやっても片付かない。私立高校の過去問は「これ、解き方習ったっけ?」と思うような難問揃いだった。
私立校はマークシート方式が多いから、いざとなったら勘でも答えられるし、国語の書取りや数学の作図など絶対に出てこない問題もあるのだが。
一方、県立高校の問題は中学校で習った内容が総合的に出てくる。基本的な問題が多くて解きやすいが、偏りは少ない。これも都道府県によって特色が異なるらしいけど。
どこの県立高校でも、問題の内容は同じ。重要なのは何点取るかだ。そうして問題の特徴は掴んだが、入試に打ち勝てるかどうかはわからない。自分の力を過信していたら合格できないだろう。
「凛太朗、大丈夫か?勉強しすぎなんじゃー」
僕は時間を忘れていたらしい。気づけば勉強で疲れてうつ伏せになっていたところを、扉の向こうからそんな父さんの声が聞こえた。
僕は部屋の扉を開けて
「でも、まだ勉強が大量にあるから」
と話した。
「アホ、宿題以外は義務やないんやから休みなさい」
父さんにそう言われ、勉強を中断するのだった。
その日の夕食は、いつも以上によく食べた。腹が減っては勉強はできぬ。僕も勉強か食事か選べと言われたら食事を取る。
「歩美の時はこんなにガッツいとったっけ?」
父さんが不思議そうにそう言った。
「いや、疲れたって言いながら普段通り食べてなかった?」
母さんがそう返した。確かにそうだったと思う。
7年前、中高一貫の女子校の受験勉強をしていた姉さんは、クタクタになるまで頑張っていた。
「今思えば、あそこまで頑張らんでも合格できたのかもって思う」
姉さんはそう振り返った。
「やから、凛太朗も無理するなよ。大晦日と元日くらいは勉強サボれ」
父さんがそう話した。
「でも、勉強したことを忘れるんじゃー」
僕はそう不安になった。
「その時は、また覚えたらええやん」
父さんのその言葉に甘えていいのだろうか。
そう言われながらも、年末年始も勉強はした。でも、ノルマはほぼ達成していることもあり、思っていたよりのんびりできた。よく食べて、少し昼寝する時間も作れた。
元日は家族と初詣に行って志望校合格のお願いはしたが、他の場所には行かなかった。結局出かけないから家で勉強することになった。そうして、冬休みは終わった。




