面接ごっこ
夏休みが終わると本格的に受験一色になった。進路面談も何度かあり、プレッシャーが重くなるのだった。
「みんなはどう?」
面談の翌日の放課後、僕は仲間たちと空いている教室に集まった際にそう聞いた。
「俺、今の成績やとギリギリって言われた。もう少し頑張れやってさ」
ハゼはそう不貞腐れていた。そして
「凛太朗、俺に学力を分けてよー」
とすがってきた。僕は
「勉強なら教えられるけど分けることは…」
としか返せなかった。
「やよな。良かったら受験勉強に協力して欲しいんやけど」
ハゼはまたそう口にした。
「それはええよ」
僕がそう答えるとハゼはぱっと表情が明るくなり
「ありがとう。凛太朗大好き!」
と喜んだ。僕はそんなハゼを見て、「その単純さを分けてほしい」と思った。
「でも入試は、学力試験だけやないよ。学校にもよるけど、面接作文もあるやろ?」
凛子がそう話した。確かにそうだ。
「でも、それは前期試験の話やろ?俺、前期は8割無理やと思う」
と、ハゼは完全に諦めモードだった。
「諦めるな!諦めたらそこで試合終了やで!」
イクラがそう叫んだので、その場がしらけてしまった。しかしイクラはお構いなく
「よーし、今から面接の練習をしようぜ」
と提案した。昔から、こいつの出す案はいつも迷案だ。
しかし、ハゼも凛子も
「それはええな」
となったため、実行することとなった。
僕らはじゃんけんで2人1組となり、面接官役と受験生役を交代ですることになった。僕は凛子と先に受験生の役をした。
まずは凛子から。僕は凛子が面接の練習をしている間に、面接のポイントを確認した。挨拶は忘れない。顔を上げて、面接官の襟元を見る。目を逸らしたり、髪をいじったりしない。背筋を伸ばし、最後まで敬語を貫く。
色々と確認しているときに、教室から凛子の笑い声がした。え、どういうことだ?と思っていたら、笑いすぎて涙まで流している凛子が戻ってきた。今はその理由に触れないことにしよう。
「入っていいよー」
教室からハゼの声が聞こえたので、僕は「はい」と返事して教室のドアを叩いた。
「どうぞ」
中からその声が聞こえたので、僕はドアを開け、
「失礼します」
と挨拶した。
席に案内された僕は、
「お願いします」
と挨拶をして着席した。そのときイクラが
「お願いします」
と変な声を出した。僕は、それをスルーして次に進んだ。
「なぜこの学校に入ろうと思いましたか?」
ハゼがごく一般的な質問をした。
「医師になるために、医学部への進学を希望しているからです」
僕ははっきりとそう答えた。よし、いいスタートだ。
と思っていたら、イクラが変顔をしながら僕の顔を覗き込んできた。僕はぷぷっとなってしまったが、頑張って笑い声を押し殺した。
そしてハゼからの次の質問も、
「1日のうちに、何回トイレに行きますか?」
というけったいなものだった。思わず「そんな質問面接でするか!」とツッコミそうになったが毅然と
「数えたことがありませんでした」
と答えた。しかし、ハゼはまたもや
「1日のうちに何回自分のお尻を触りますか?」
と質問してきた。それも数えたことないし!…じゃなくて
「それも数えたことがありませんでした」
と答えた。
次にハゼは
「何フェチですか?」
と質問してきた。
また変な質問⁉︎すぐには思い浮かばない。
「強いて言うなら髪の毛フェチです。自分が茶色い癖毛なので母さんみたいな長くてサラサラの黒髪が好きです」
僕はそう答え、後で何言ってんだ自分⁉︎となった。
案の定ハゼとイクラはニヤニヤしていた。
「マザコンや、マザコン」
ハゼがそう笑った。
「お前の母ちゃん、俺らの母ちゃんと比べもんにならんくらい美人やもんな」
イクラもそう揶揄ってきた。母さんは僕らの小学校から校医検診を担当してきたから、同級生もよく知っているのだ。
しまった、どんなにひねった質問ですにも平然と答えないといけないのに。
「面接は以上です。ありがとうございました」
ハゼがそう挨拶をしたので、僕は
「ありがとうございました」
とお礼を言い教室を出た。
そのときに会った凛子に
「凛太朗、すごいな。あたし、すぐ笑っちゃったのに」
と感心された。
「いや、僕も笑いそうになったよ。変なこと言ったし」
僕はそう返した。
その時、ハゼとイクラが教室から出てきた。
「ハゼ、変な質問しすぎやろ!」
凛子がハゼにそう言った。
「あんな質問する面接官なんておらんやろ」
僕もそう言った。
「いや、面接って、ちょっと意外な質問をして受験生の本性を引き出そうとするよ」
ハゼのその意見は正しいと思うが
「だからってあんな質問せんやろ!」
凛子がまたツッコんだ。
そうして次は僕らが面接官役をする番となった。
「よっしゃ、反撃するで!」
凛子はそう張り切っていた。
「あたしが変な質問しようと思うけど、凛太朗は何か思いつく?」
凛子にそう聞かれた。
「うーん、『お腹いっぱい食べたいものはなんですか?』とか?」
僕はそれくらいしか思いつかなかった。
「普通やない?最初あたりにその質問をしようか」
凛子はそう話した。そして作戦会議の末、受験生を呼んだ。
「失礼します」
ハゼが教室に入ってきた。
そうして僕の時と同様に、挨拶をしてハゼが着席した。
「なぜこの学校に入ろうと思いましたか?」
凛子は最初にその質問をした。
「技術の授業が得意で、将来は自動車整備士の仕事に興味があるからです」
ハゼはそう答えた。工業高校志望の生徒としてはいい回答だな。
次に凛子が
「お腹いっぱい食べたいものは何ですか?」
と質問した。
「え?」と動揺したハゼの反応に、僕らの顔が少しにやけた。
「…バナナです」
ハゼは、緊張しながらそう答えた。
次に凛子は
「なってみたい動物は何ですか?」
と質問した。
「えー!えーっと、えーっと」
ハゼがまたそう動揺した。僕はその顔をガン見した。
「強そうなので、ライオンになりたいです」
ハゼがそう答えた。
次に凛子は
「脱衣所でまず何から脱ぎますか?」
と質問した。
「…ズボンです」
ハゼがそう答えたので僕は意地悪く
「靴下じゃなくて?」
と聞いた。その時、ハゼが真っ赤になった。
凛子はさらに
「好きな女性の体のパーツはどこですか?」
と質問したため、ハゼはアホみたいに口をポカンと開けて絶句した。僕も、これに合わせてセクシーポーズをしてみた。
「…厚い唇が好きです」
ハゼが恥ずかしそうにそう答えた。こいつ、テンパりやすいタイプだな。一言一言詰まっている。
「面接は以上です。ありがとうございました」
凛子がそう挨拶したのでハゼも
「ありがとうございました」
と挨拶をして教室を出た。
その後
「やったね。この調子でイクラにも反撃してやろう!」
と凛子と話した。
そうしてイクラの面接練習が始まった。しかしイクラは、志望動機を聞かれて自信たっぷりに
「女子の制服が可愛いからです」
と答えていた。イクラのやつ、本番でもそう答えるつもりか?
凛子の
「好きな男性の体のパーツはどこですか?」
という質問には堂々と
「おケツです」
と答えていた。いくらおをつけてもケツって言い方はないだろ。イクラは即答すぎて、じっと顔を覗き込むのは無効だった。
「今まで可愛いと思った女の子の数を教えてください」
という質問には、イクラは必死で指折り
「由嘉ちゃん、撫子ちゃん、歩美さん、凛子…」
とぶつぶつ言いながら数えて
「20人です!」
と答えた。由嘉さんは話していたが、僕の姉さんや凛子のことも可愛いと思っていたのか。イクラのやつ、肝は据わっているな。アホなことしか言っていないけど。
そうして面接の練習は終わった。
「凛子たちも変な質問するな!」
ハゼがそう叫んだ。
「反撃しただけやよ」
凛子がそう笑った。
「でも、これで本当に面接の練習になったんやろか?」
僕の一言に全員「あ…」と言ってしまった。もしかしたら、少しでも受験勉強から逃げたかっただけなのでは?




