受験か恋か友情か
夏休みに入り、僕は第一志望にしていた高校の見学に参加した。その高校は交通の便が良く行きやすかった。やはり通いやすい学校の方がいいだろう。
中学校から一緒に見学に行った生徒は、成績を鼻にかけている生徒とか、僕に執拗に言い寄ってきた女子とか、よく知らない生徒ばかりで、仲のいいやつはいなかった。まだ夏休みだから、この見学に参加したうちの生徒全員がこの高校を受験するわけではないだろうけど。
そうして普通科と理数科に分かれて説明や模擬授業が進んだ。どちらにしても専門高校のように就職に直結する資格は取れないが、学力を武器にして進学を目指すと改めてわかった。僕は高卒での就職は考えていないからそれで良かった。
中でも理数科は、名前通り理系の授業が多くなる。前期試験も作文ではなく理科と数学の筆記試験があるとわかった。やはり普通科よりレベルや倍率は高いが、医学部への進学率も高いという。
午後には部活見学があったので、僕は野球部の見学に行った。と言っても、野球を続けるかは迷っている。坊主にしたくないわけではないが、医学部を目指すなら勉強との両立が難しいかもしれないと思うのだ。
野球部の印象は悪くなかったが、やはり夜遅くまで練習しているという話だった。ちなみにうちの中学の先輩は入っていなかった。
そうして帰宅してから、改めて学校案内を見た。今回は部活紹介はなかったが、科学部とかもあるのか。勉強にも役立つだろうし、面白そうだ。それに学業との両立もしやすいだろう。
高校自体も印象が良かったし、簡単には入れないだろうけどこの高校の理数科を第一希望にして受験しようという意向が固まった。
その日は、家族全員での夕食となったため、自然と志望校の話題になった。
「高校の見学はどうやった?」
母さんにそう聞かれた。
「良かったよ。ここを受験したいと思った。ただ、仲間とは進路が分かれるとも思った」
僕は13個目の唐揚げを口にしながら、そんな情けない話をした。
「確かに寂しいよな」
受験を経験した先輩である両親や姉さんは、その話を否定しなかった。
「俺も、親友とは高校が分かれたよ。中学受験に失敗したときに、『残念やけど、同じ中学に通えて良かった』とも言われてた」
父さんはそんな話をした。そうか、複雑な思いはあっただろうけど、親友の気持ちもわかる気がした。
「私も親友とは高校の方面が分かれて、駅で会うことすらなくなった」
母さんもそう話した。それも寂しい話だな。僕も、高校入学後は今の仲間たちと疎遠になってゆくのだろうか。ただ、僕の場合は駅で会う可能性はあるから、そこまで辛くないだろうか。
あと、受験のために頑張ろうと思うと、恋をしている暇などないような気もする。実際中学3年になってから破局したという話も耳にする。
昌雄君が高校受験があっても姉さんと破局しなかったのは、姉さんの方が年上で勉強を教えられる立場だったからだろう。そう思い、僕は独り言のように
「去年のうちに失恋してちょうど良かったのかも。今は受験に専念しようと思えるもん」
と口にした。
「そうかもな」
家族がそう口を揃えた。
僕はこの夏休みに部活を引退して宿題や受験勉強で忙しくて、由嘉さんのことを忘れていた。夏休みが終わったらまた顔を合わせるけど。
結局、夢のために捨てなきゃいけないものってあるよな。自分の人生の大切な選択のために仲間たちと違う道を選んで、独り闘わなければいけない。それから逃げたら受験にも人生にも落ちてしまうかもしれない。
だから、たとえ一緒に受験する仲間がいないとしても、今の第一志望校を受験しよう。改めてそう思うのだった。




