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体育祭

 体育祭は6月にある。中学校最後なのでいい思い出を残したいが、優勝しようという期待はしていない。なぜなら、これまで所属していたクラスは学校のイベントでは最下位かブービーというくらい成績が悪かったのだ。だから、自分は敗北の男神だと思う。

「よし、3年3組、優勝を目指して頑張るぞ!」

僕の気持ちとは裏腹に、担任の先生は張り切っていた。それもおかしな話ではないか。僕らの担任は、体育を担当している松岡先生だ。ぜひ優勝させたいのだろう。


 僕は野球部の活躍から50m走の選手になった。

「わーん、りんちゃん速いよー!待ってー!」

同じく50m走の選手になったイクラが体育の時間の練習の際にそう叫んだ。

「練習とはいえガチで走っとるんや。待てるか」

僕はそう返した。ボケなのか本気なのか、こんなことを言ってくるイクラをうざったく思うのだった。

「お、朝倉いいぞ」

走り終わった後、松岡先生がそう褒めてくれた。

「ありがとうございます」

僕はそうお礼を言った。

「朝倉、お前クラスの中で1番足が速かったからさ、全員リレーのアンカーをしてくれへん?」

松岡先生にそう頼まれた。

「へ⁉︎」

僕は驚いてそう叫んだ。僕は今までどんなクラスになっても足の速さがクラスで3番目という中途半端な立ち位置にいた。走ることは好きだが自信があるわけではない。

「そんな、クラスで1番なわけありません!」

僕は松岡先生にそう言った。しかし松岡先生は

「いや本当。今年の体力テストの50m走のタイム、お前が1番速かった」

と告げた。

 今年の体力テストのタイムなんて、全然覚えていなかった。ましてや誰かと比べたことなんてなかったし。気付かぬうちに、そんなに足が速くなっていたのか。

 いや待てよ。もしかしたら今年のクラスメートがみんな足が遅いだけかもしれない。だとしたら今年もまたー。


 その後、改めてクラスで全員リレーの順番を決めることになった。その際に人数の関係から、2回走る人が必要という話が出た。僕は自ら

「じゃあ、僕が2回走ります」

と手を挙げた。

「そうだ、朝倉は足が速かったな」

クラスメートはそう納得して、僕の主張をすんなり快諾してくれた。僕の足の速さはクラスメートも知っていたのだろうか。ああそうか。タイムを記録している人や、僕以外の男子生徒は走っている僕を他の走者と比べて客観的に見られるのか。

 そうして走る順番が決まっていった。2回目はアンカーだが、1回目は前半に、なんと由嘉さんの次に走ることになった。とはいえ最初の案。1回全体練習をしてから順番が変更になる可能性もあるだろう。しかし、最初の全体練習では由嘉さんからバトンを受け取るということに変わりはない。そしてアンカーということも。

 そうして全員リレーの練習をしたが、いいテンポで続いたと言われ、順番が変わることはなかった。


 そして体育祭当日。クラスメート全員が元気に登校した。この日は全員が体操服にクラスのゼッケンを身に付けた。由嘉さんと同じ3組のゼッケンを着けていると思うと、何だか不思議な気持ちになった。

「よーし、今日は頑張るぞ!」

「おう!」

「全力を尽くしてやる!」

先生はもちろん、クラスメートもやる気満々だった。なら、僕もみんなに負けないくらい頑張らなくては。

 午前にあった50m走は、練習より軽やかに走れた。実際タイムが良かったらしく、全体で2位の成績となった。これなら、午後の全員リレーも大丈夫だと思った。

 「凛太朗、ええ感じやん。やっぱり由嘉ちゃんにかっこええとこ見せたいよな」

昼休み、イクラにそんなことを言われた。

「いらんこと言うなよ。僕はクラスの力になりたいだけや」

僕は少しむっとしてそう返した。

「やから、由嘉ちゃんもクラスメートやん」

イクラはそう言った。

「ああ面倒くさい。クラスメートは由嘉さんだけやないやろ」

本当に、今更由嘉さんに振り向いてほしいなんて思っていないのに。人の古傷をほじくりやがって。とはいえ、由嘉さんもいい思い出を作ってほしい。

 全員リレーの直前、僕らは先生も含めクラスの全員で円陣を組んだ。

「3年3組、絶対優勝するぞ!」

「ファイトー、いっぱーつ‼︎」

僕も大声でそう叫んだ。

 ついにこの時が来た。僕にとっての本番は、50m走ではなくこの全員リレーだ。僕は自分にバトンが回ってくる時を緊張しながら待った。

 最初に走るのは前半の方だから、すぐ順番が来た。由嘉さんは、他の走者から逃げるように走ってきた。

「よし任せろ」

心の中でそう呟き、託されたバトンを握り締めた。そうして僕は他の走者を2人ばかし抜かして次の走者にバトンを渡した。

「良かったよ」

「アンカーの時も頑張れ」

最初に走った直後に、クラスメートにそう労ってもらった。

 そしてアンカーの襷をかけ、最後に走るのを待った。他のクラスのアンカーにはハゼや凛子もいる。1番でゴールできる自信があるわけではないが、そうさせてやろうと自分を奮い立たせた。

 そうして僕はバトンを受け取り、振り向かずにひたむきに走り続けた。遠く感じるが、クラスメートの声も聞こえた。

「朝倉君、頑張って!」

間違いない。由嘉さんの声も聞こえた。みんな待ってろ。逃げ切ってゴールしてやる。

「朝倉、よくやった!」

僕は最初にゴールしたようで、そんな歓声があがった。後ろを見ると、凛子が僕の直後にゴールしていた。

「悔しいな。でも凛太朗、おめでとう」

凛子はそう言った。

「凛子!」

僕はその言葉に感激した。やっぱり凛子はいいやつだ。嬉しくて泣きそうになった。

 そして結果発表の時が来た。

「優勝は…3年3組です」

そう知った時、僕らのクラスは喜びのあまり大興奮となった。

「ウソ⁉︎」

「やったよ!」

「凛太朗ー‼︎」

 帰りのホームルームのとき、松岡先生は僕に

「よくやった朝倉」

と言い抱き締めてきた。せ、先生汗くさい。そうして先生を見ると、号泣していることがわかった。

「僕だけの力ではありません。全員の力ですよ」

僕はそう口にしたが、何だか照れ臭い。でも、本当に良かった。僕は今のクラスメートより足が速いだけでなく、本当に足が速くなっていたのだ。

 そんな僕を、クラスメートも褒めてくれた。その中でイクラは僕に対して

「よっ、勝利の女神!」

と叫んだ。良かった。僕は敗北の男神ではなかったのだ。…って

「女神って呼ぶな。僕は男や!」

思わずそう反論した。

 ホームルームの後にイクラは

「最初は由嘉ちゃんからバトンを受け取ったんやよな」

という話もしていた。

「それが何?」

僕はうんざりしながらそう聞いた。

「由嘉ちゃんの手に触れたんやないん?」

イクラの言葉に、僕は急にドキッとした。確かにその時は意識していなかったけど、思い返せばほんの少しだけ由嘉さんの手、というより指に触れていた。

「赤くなっとるってことは、本当にそうやったんやな。りんちゃんってば一途!」

イクラがそう揶揄ってきたので僕は

「本気で黙れ」

という言葉が出てきた。

「ごめんな凛太朗。お前、すごく頑張ってたから」

イクラはそう返してきた。本当に変なやつ。でも…

「イクラもガンバっとったやん。お疲れさん」

という言葉が出るのだった。

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