図書委員会
中学2年生になった僕は、図書委員会に入った。1年生の時も入りたくて手を挙げたのだが、じゃんけんに負けて落とされた。だから、図書委員会になれて本当に嬉しい。最初の委員会がある放課後、僕は張り切って図書室に向かった。
しかし早く来すぎたせいなのか、図書室には僕と同じ色のスリッパを履いた女子生徒が1人読書しているだけだった。きっと僕と同じように図書委員で、みんなが来るのを待っているのだろう。
何の本を読んでいるのだろうと気になって近付いた。彼女は古典文学を読んでいた。枕草子を元に戻し、他の本を取ろうとしていた。しかし、高いところにあって届かないのか、小柄な彼女は必死で背伸びをしていた。
「僕が取ろうか?どの本?」
彼女のことが気になって、そう話しかける自分がいた。
「ありがとう…って、朝倉君⁉︎」
彼女が振り返って僕を見た。こうして見ると、彼女はとても可愛い。
「え、僕のこと知っとんの?」
驚いてそう聞いた。
「うん。前のクラスメートが、よく朝倉君の話をしとったから」
そうだったのか。他のクラスでも僕のことを知っている人もいるのか。
「それより、本はもうええよ。みんな集まってきたから」
振り返ると、生徒達が集まってきて、図書室が賑やかになっていた。
委員会ではクラス別に座り、当番の曜日を決めることになった。このときに、先ほどの彼女が2年1組の金子 由嘉という生徒だと知った。僕は2年4組だから、彼女のことをよく知らないはずだ。
「朝倉君は何曜日がええ?」
委員会の先生にそう聞かれた。
「何曜日でも構いません。残り物で」
僕はそう答えながら、金子さんと仕事ができたらいいなとぼんやり考えた。もちろん、そんなことは口が裂けても言えなかったが。
「金子さん、朝倉君、金曜日でええかな?」
先生に聞かれてはっとなった。金子さんと僕はほぼ同時に「はい」と答えた。金子さんも僕と同じように何曜日でも良かったみたいだ。なぜ金曜日が残っていたのかわからないけど嬉しい。13日の金曜日に当番をしたくないからか?
「金子さん、これからよろしく」
最初に図書当番になった日に、金子さんにそう挨拶した。
「よろしく」
金子さんはそう返してくれた。
「金子さんやなくて、由嘉さんって読んでもええかな?」
僕は金子さんにそう聞いた。
「どうして?」
金子さんが不思議そうにそう聞いた。
「小学校時代の同級生に金子って名字で『カネゴン』って呼ばれていたやつがいて思い出しそうやから」
僕がそう答えると、由嘉さんがくすくすと笑った。
「ええけど、由嘉さんなんて呼ばれ慣れてへんから、不思議な感じがする」
それが、初めて由嘉さんと交わしたちゃんとした会話だった。
それから僕は、図書当番の日が少し楽しみになった。当番の仕事は楽ではないけど、あまり図書室に人が来ないときもある。
僕らは図書室にある本を読み放題なことがとても嬉しい。最初は自分の読んでいる本に夢中だったが、読み終わって近くで読書している由嘉さんを見ていると、何を読んでいるか気になった。また、その姿が可愛いとも思った。
「何を読んどんの?」
僕は思わず由嘉さんに聞いた。
「更科日記」
由嘉さんは少し顔を上げてそう答えた。
「由嘉さんって、古典文学は好き?」
僕は嬉しくなってそう聞いた。
「うん。原文はさっぱりわからへんけど。朝倉君は?」
由嘉さんにそう聞かれた。
「僕は平家物語を読んでた」
僕はそう答えた。
「朝倉君も古典文学を読んどったんや」
こんな静かな場所で、由嘉さんと何気ない話をすることに幸せを感じた。もちろん、図書館に人が集まってほしいとは思うけど、あまり人がいないのも悪くないと思ってしまう。
それは、僕が本が好きだからだろうか。それとも由嘉さんのことがー。
しかし、そんな時間は長くは続かなかった。
5月の半ば頃から、僕らと同じ色のスリッパを履いた女子達が図書室に来るようになった。みんなで星占いの本を読んで盛り上がっているようだ。僕は「乙女座」の「男」ということを揶揄われたことがあるため、星占いは嫌いだ。
そう思いながら当番の仕事をしていたら突然その女子グループの1人に
「朝倉君って何座?」
と聞かれた。1番嫌な質問をされたと眉間に皺が寄ってしまった。
「ごめん、今忙しいから」
僕は逃げるようにそう返した。
「でも、手は空いていなくても口は空いとるやろ?」
一緒にいた女子がそう言ってきた。ちくしょう、逃げ場がなくなった。
「…笑うなよ」
僕がそう切り出したら最初に聞いてきた女子が
「わかった、乙女座や!」
と言ったため、グサリと来た。
「えーウソ!本当に⁉︎」
「ああ」
「朝倉君って乙女座やったんや!」
また騒がれた。慣れているけどやっぱり嫌な感じ。
それから、そいつらは僕が当番の日は図書室に来た。
「ええなー佐藤。朝倉君と相性ええやん」
「ヤバいよねー」
本を見ながらそう騒いでいた。悪いがまともな会話を交わしていないのに相性の良し悪しなんてわからないと思う。
そのうち連中は騒ぐ声だけは無駄にでかいのに、本は読まなくなった。その騒ぎ声が響くたびに、由嘉さんは困った顔をしていた。いや、困っているのは由嘉さんだけではない。こんな連中のせいで他の生徒が来なくなっては困る。
僕は、返却された本で、そのとき1番騒いでいた女子の頭を軽く叩いた。
「静かにしろ。図書室で騒ぐな」
冷淡に言い放ち、きっと睨んだのに、向こうは急にデレデレして
「ごめんなさい」
と返した。何だこいつ、気持ち悪い。何嬉しそうにしているんだよ。
「朝倉君、この前はありがとう」
また図書室が静かになった当番の日に、由嘉さんにそうお礼を言われた。
「いや、あれはただ腹が立っただけやから。向こうは反省なんてしてへんと思うし」
僕は淡々とそう返したが、少々気恥ずかしさもあった。
「でも、また静かになったやん。実は私、人気があるところが苦手で落ち着かなかったから」
由嘉さんはそう話してくれた。
「そうか。もしかして、それもあって図書委員になった?」
僕はそう聞いた。
「それもちょっとある」
由嘉さんはそうはにかんだ。やっぱり由嘉さんは可愛いな。




