BAN神誕生
つい昨日まで俺は、ただのオタクだった。
Vtuberやストリーマーの配信を見て、ゲームにアニメ三昧の日々。
給料が入れば推し活に全力を注ぎ、財布は常に空っぽ。
それでも幸せだったと思う。
その夜、推しのVtuberの1周年記念配信でテンションが上がり――
「1周年おめでとうございまああああああああああす!」
そう叫んで赤〇パを投げたら、財布が軽くなりすぎて、心臓まで軽くなってしまった。
――はい、突然の心不全END。
『スー〇ーチャットありがとうございまーす!』
最期に見たのは、画面いっぱいに映る推しの笑顔だった。
薄れゆく意識の中で、推しからの感謝の言葉だけが頭の中で響いていた。
「推しに貢献して散ったんなら本望だろ!」と笑う奴もいるだろうが、
俺からすればマジで不本意。
もっと推しの尊さを拝んでいたかったのに。
――気づけば俺は、真っ白な空間に立っていた。
目の前にはでっかいモニターがずらり。そこには勇者や魔法使いたちが戦う姿が流れている。
「おーい、起きてるか?」
ここはどこだ?と怪訝に思いながらも声のした方を振り向くと、白いローブを着た若いイケメンが、ソファに寝そべったままポテチをもぐもぐ食っていた。
「……誰?」
「俺か?俺は神だよ神。よろしくー」
そう言って、神と名乗った男はポテチの袋を傾け、最後のポテチを口に流し込んだ。
「お前は死んじゃって転生したんだよ。んー、とりあえず簡単に説明するね」
どこか飄々とした声。指先についた油を舐めとり軽く咳払いし、その男は勝手に話し続ける。
「そこのモニターに色々映像流れてんじゃん?これは俺たち神々が運営するライブストリーミング配信プラットフォームで、通称“神託配信”って言って、地球の配信文化をちょっと拝借してみたんだよね。」
「配信!?」
「面白かったんで、つい真似しちゃった。人間って面白いこと考えるよなぁ」
コーヒー飲む?と聞かれ俺はコクリと頷くと、缶コーヒーを差し出されたのでおずおずと受け取った。
「今じゃ神々の間で結構流行っててさー。それぞれの神が自分を信仰してる国で勇者パーティーを選んで、そのパーティーの冒険を配信してんの。エンタメ最高!」
胸を張って言った神は、けれどすぐに眉をひそめる。
指をパチンと鳴らすと画面が切り替わり、そこには勇者パーティーが魔物と戦っている姿と、画面右に視聴者コメントが流れていた。
『うおおお勇者がんばれええええ!』
『回復遅くね?』
『草』
『今日の連携ゴミすぎ』
『雑魚乙www』
「え……?コメント付きで垂れ流してんの!?」
「そうだよ。あのみんなと一緒に観てるって感覚とか一体感が好きなんだよねぇ。だからコメントはお前たちみたいなオタク霊を集めた世界を別に作って、そこから送られるようにしたんだけど……結構荒れるんだこれが」
「そりゃそうだ!てかオタク霊!?俺らそんな扱い?」
言葉を失っていると、神がぽんと手を打つ。
「で、そんな状況を打破するため、お前に管理人――モデレーター権限を授けることにしちゃいましたー!」
パチパチパチと手を叩き笑顔で説明を続ける。
「コメント消去やBANもできるし、勇者パーティーに神託としてコメントも送れる。地球での赤〇パとはちょっと違うけど、似たようなシステムも用意してるぞ!……さぁ、好きなパーティーを選んでくれ」
(異世界転生って言ったら普通は「勇者に生まれ変わって世界を救え!」とか「最強チートで無双!」とかじゃないの!?)
俺は戸惑いながらモニターを見て、コーヒーを噴き出した。
「……あ、あれは……!」
画面に映る聖女。透き通る声で回復魔法を唱える彼女の姿は、俺の推していたVTuberに瓜二つだった。
「決めた!あのパーティー!俺、あのパーティーにする!!」
早口で詰め寄りながら宣言すると、神は肩をすくめ、楽しそうに笑った。
「OK!じゃあ今日からお前は“BAN神”として、責任をもって彼らの配信を見守ってくれ」
――こうして俺の異世界転生ライフは幕を開けたのだった。