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今年の夏も 汗をかいた?

作者: 西の宮

 ここ数年の異常気象の影響か

 5月には、早くも30℃を超えた時はまいったよね。



 7月の頭には、38℃越えを連発。

 せっかくの夏休み目前だっていうのに 滝のように溢れる汗が止まらない。




「暑い……

 これじゃ、室内に居ても熱中症で亡くなる人が出るわけだ」




 これは8月や9月になれば40℃越えかと思いきや

 7月の中旬になった途端 いきなり20℃前後に。


 このくらいが快適!なんて思っていたけれど。

 


 ある朝 目が覚めると、とっても寒い……。


 あわてて、肩に羽織る服を引っ張り出しながら

 スマホで確認すると、今日の最高気温が11℃って!?




「嘘……だって、今7月だよ? 夏だよ?」




 こんな気温はありえないと、久しぶりにテレビをつけてみたら

 気象予報士のアナウンサーも、困惑しながら汗を拭っている。



 なんでこんな気温になっているのか、全然わからないって。

 昨日までの予報はなんだったのかという質問にも、しどろもどろ



 「急な寒暖差にご注意ください」、なんて言ってるけど



 何?何が起きてるの?

 少し郊外から離れたここだけかと思いきや、都心をはじめ全国でも同じだとか。



 スマホを見ると、友人の奏からのメールが

 早速風邪をひいたんだって。

 冷え性なので、私は夏でもブランケットをかけていたから助かったけど。


 気付けば、ジワりとかいた汗を拭う。



 大学の前期の試験も来週に控えているから、今週の授業をサボることが出来ないし

 仕方なく身支度を整えて家を出ると、道行く人々も7月とは思えない

 厚い服装が目立つ、季節外れなジャケットを、重ね着している人達まで。


 駅前のコンビニに、朝ごはんを買うため入店すると



「寒っ……なに、このコンビニ?

 暖房が故障してるの?」



 恐ろしく冷えた店だった。

 まるで真夏のような……って、たしかに真夏だけどさ。

 今日みたいに寒い日に、これは風邪をひくよ?


 

 と思いながら、朝ごはん代わりのパンとサラダと紅茶を手に取り 

 レジ前に並ぶと店員の額に汗が。

 


 ポタ……


 

 ん?こんなに寒い店内なのに、汗ってかくの? 



 チラり と、後ろに並んでいるおばさんを見ると

 こちらも、ぶるぶると体を震わせながら、寒そうな顔に汗が浮かんでいる。

 


 この店、なんだか変だよ! と思いながら

 逃げるように 会計をすましてコンビニを走り去る。



 駅のホームで電車を待っている間も

 はぁぁぁ と、息を吐きだすと白い吐息が、口からふわりと。

 


 うわ~、寒い! 

 異常気象もここまで来たか、なんて空を見上げてみると

 7月なのに まるで真冬のような空模様。



 真夏の日差しは、ひと足早く夏休みに入ったみたい。

 


 外やコンビニの店内ほどじゃないけど、少しひんやりと感じる電車に乗車して

 大学の友人とスマホで連絡したり、エゴサしながら

 チラリと前に座っているおばさんを見ると ゴシゴシと汗を拭っている。



 さっきのコンビニもだけど、なんでみんな汗をかいてるの?


 

 右、左、と車内を見渡してみると、おばさんだけじゃなく

 みんなもハンカチやウェットティッシュで汗を拭っている。



 あれ?そういえば、なんで私も家で汗をかいたんだろ……

 今の気温は8℃だよ。



 ポタ……ポタ……



 ハンカチを持っていないのか、斜め前に座る小学生っぽい

 制服姿の男の子のほっぺたから、汗がズボンに滴り落ちる。



 猛暑日ならわかるよ?

 夏じゃなくても、緊張してる時や 運動した後だって汗はかくし。



 でも、冬服を引っ張りだすくらい寒いのに

 こんなに汗をかくのは、おかしいよね?




 ふと気付けば、私の額にもじわりと汗が

 慌ててハンカチで拭うけど

 


 えっ、車内は暑くないよ? むしろひんやりと寒い!

 これは何?

 


 ガタンガタンと、一定の間隔で揺れる、電車の音と共に



 ポタ……ポタ……ポタ……




 汗が滴り落ちる音が、私の耳に少しずつ

 でもさっきまでより、はっきり聞こえる。


 

 ごくごくと、さっき駅のコンビニで買った紅茶を飲み

 喉の渇きを抑えようとするけど、私の汗は止まらない。




 ガタッ ドサッッッッ



「キャァァァァァァァァァ!!!」


「どわっ、何が起きた!」

 


 車内の端から、女子高生の悲鳴が。

 どうやら、隣に立っていたサラリーマンが突然倒れたらしい。


 

 倒れた男性を見てみると、ベタリと汗でシャツが張りつくほど濡れている。

 こんなに寒いのに、なんでこんなに汗をかいて――



 ドサドサッ!



 私の真後ろに立っていた、厚手のウールを着込んだおばさんや

 制服姿の男子学生達の、糸が切れた人形のように倒れる勢いで

 手に持っていたスマホが、はじき飛ばされちゃった。



「えッ!? あの、どうされました?」


「おい君、しっかりしなさい! 学生服を緩めるぞ」



 彼女達の顔には

 マラソンの選手が走り終えた後のような、大量の汗が



 

「もしもし! 大丈夫か!?

 チッ、さっきからなんなんだこの汗は! さっきから視界までボヤけやがる」


「おい、誰か非常通報ボタンを押せ!」




 相次いで倒れる人が続く、パニックになった車内で

 近くで倒れた人に、声をかけたりするなかで 非常ボタンの方を向くと 

 先ほどまで、ボタンの前に立っていたおじさんも倒れている。



 ポタ……ポタ……ポタ……


 ポタ……ポタ……ポタ……



 不協和音のような、耳ざわりな音をたてながら

 気が付けば、車内の床が、台風の日のようにびしょびしょに。



 今日は 雨なんか降ってないし

 これ全部、まさか汗?



 はっと振り返ると、目の前に座っていたおばさんの体も、ぐらぐらと揺れている。


 前のめりに、倒れそうになった所を 慌てて支えるが

 おばさんに触れると、びちゃりと汗が。



 これはおばさんの汗?それとも私?

 ううん、そんなことはどうでもいい。



 額からあふれ出る汗を必死に拭いながら、周りに助けを求めようとするけど

 気づけば すでに、車内のほとんど乗客が転がっていて……



 座っているから、倒れてないだけで

 もしかして、みんなすでに?



 隣の車両を見ると、乗車した時に見た、立ってた乗客達の姿が見えない。

 全員座った、なんてことはないよね。



 何、何なの!?

 早く、駅に着いて!



 早く 早く 早く 早く !!!




 2度と聞きたくないような音に耐え、なんとか席に腰掛け

 床に転がっていた、誰かのオレンジジュースを飲み

 意識が飛びそうになるのを必死に堪えていると、やっと次の駅が見えてきた。


 急いで救急車を呼ばないと、みんなを病院にっ!


 

 ああ、汗が止まらない。

 気持ち悪い、苦しい、目がまわる、吐きそう。



 

 ポチャ……ポチャ……ポチャ……


 ポチャ……ポチャ……ポチャ……



 

 永遠とも思える1秒1秒を耐えていると、やっと駅に着……えっ?

 なんで、駅を素通りしたの。

 


 この電車は各駅停車だよ?

 まさか、電車の運転手まで――



 素通りする最中、駅のホームを見ると

 ホーム上でもたくさんの人が……

 


 たくさん?

 ううん、たくさんじゃない。 多分、みんな倒れてた。



 ビチャ……ビチャ……ビチャ……!


 ビチャ……ビチャ……ビチャ……!

 

 

 今や、鉄橋下で 電車が通過する時のような轟音を、私の耳もとで奏でながら

 滝のような汗が、私の顔をつたう。

 


 ポタ……ッ。

 

 

 あざ笑うような、1滴の汗の音が聞こえた後 

 ふっと私の意識も途絶えた。

あなたの その汗は大丈夫ですか?

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