9話 心臓のおと(慶子)
女子グループで一緒にはいるものの、
みゆきとは話ができていなかった。
はなしかけても、「ん」とか「ああ」しか言ってくれない。
昼休みに慶子は音楽室へ行った。
予想通り、そこにみゆきがいた。
彼女は窓際に座って、
ユーモレスクをきいている。
きっかけがほしい。
慶子は音楽室に入ると、ピアノの前に腰かけた。
ユーモレスクを弾く。
あれから何度も練習して、ミスなく弾けるようになった。
ただ弾くだけではない、今なら感情ものせられる。
みゆきが立ち上がり、ラジカセの電源を切った。
ふらふらと近付いてくる。
「~♪」
みゆきの手が慶子の肩に触れた。
冷たくて、まるで人形のような手だと思った。
みゆきが体をくっつけてくる。
普段だったら邪魔だと押し退けるところだが、
慶子は身を寄せたまま、ていねいに演奏を続けた。
曲が終わり、音楽室が沈黙に沈む。
3回くらい呼吸をしたあとに、みゆきがちょっと笑った。
「・・・やっぱすげぇなケーコは。
CDと変わらねぇよ」
かすれた声だったので、慶子はドキリとする。
こころが、とても切ない。
「ふーん。
みゆきに分かるんだ」
どうにか、明るく言えた。
「いや。
わかんないけどさ」
慶子はアゴを上げた。
こちらを見下ろしているみゆきの顔がよくみえる。
「みゆき。
運動会のときのこと、謝らないから」
みゆきが力なく笑う。
「あっそ。別にいいよ」
「・・・よっぽどのことがあったんでしょ?」
「なにもないよ。
あたしがバカだっただけ」
「私がコケて、周りに笑われたから
みゆきは走ってくれた。
それのどこがバカだっていうの?」
「・・・」
慶子はみゆきの体に腕を回した。
「みんなみゆきの事情を知っているっぽいのに、
誰も教えてくれない。
ズルいよ。
私だけ知らなくて、独りきりなんだ」
「そんなことないよ。
みんなケーコのこと気に入ってる」
みゆきが優しく背中をさすってくれたので、
慶子は涙が出そうになる。
「みゆきは?」
「え」
「みゆきは、私のことをどう思ってるの?」
「あ、あたしは」
みゆきはひどく傷ついた顔をした。
お揃いにした音符のキーホルダーがゆれる。
「・・・私にはピアノ弾けって言ったくせに、
自分は情けないんだね」
少しでもみゆきの気持ちを引き出したかったので、
慶子はあえて煽るように言った。
「何にも知らないよそ者が、えらそうにいうなよ」
思わずといった様子でみゆきが返事をする。
しかし慶子は傷つかない。
きっとみゆきの方が傷ついているから。
「ごめんなさい。よそ者で。
私は、もっと早く、みゆきに会いたかった」
素直な言葉を口にした。
みゆきに会う前はできなかったことだ。
みゆきは少しだけうつむくと、
大きく息をはいた。
「わかったよぉー。
話せばいいんだろ。話せば・・・」
重々しい口がひらかれる。
ありがとうございました。
次話もよろしくお願いいたします。