6話 アオハル (慶子)
みゆきがラジカセでかけたのは、ユーモレスクだった。
途中切ない曲調になるので、慶子はあまり好きではない。
「なんでこの曲なんですか?」
「いいだろべつに。好きなんだよ」
「私。
みんなにピアノが弾けることバレたくないんです」
慶子が言うと、みゆきがニヤニヤしながら
レシートをヒラヒラした。
「ぐぬぬぬぅ」
本気で殺意がわいてくる。
慶子はわなわなしながら、楽譜が並んだ棚へ向かった。
ここにもユーモレスクの楽譜くらいはあるだろう。
「えーっと・・・」
どうやら大峰高校にも以前は吹奏楽部があったらしく、
棚にはたくさんの楽譜があった。
音楽に親しんだたくさんの人達が、
ここで演奏の練習をしていたのだ。
そう思うと、少しだけこころが暖かくなる。
「あったぁ」
簡単に編曲してある楽譜があった。
メロディーを聞かせるだけなら、即興でもできそうだ。
準備してイスに座ると、慶子は指先を揉んだ。
息を吸って吐いて。
曲調を思い出しながら弾いてみる。
少しずつ指を慣らしていく。
ブランクのせいで、ホントに指が動かない。
「あー・・・だめ」
弾いている途中で、思わず漏らしてしまう。
まともに弾けない。
全部ガタガタだった。
あーあ。
いいとこナシで曲が終わる。
「ぜんぜん。ダメだった」
でも。
慶子はふるえるほど感動していた。
私って、ピアノがこんなにも好きだったんだ。
ずっとずっと。
「今のでダメなのか。
意味わかんねぇな・・・おまえ」
股を開いてイスに座っているみゆきは、
満足そうにニカニカと笑っている。
ああ、感動がブチ壊しだよもう。
ホントにどうにかしてやろうか、コイツは。
「あなた。
なんでそんなにスカート短いの?」
横目で思いきりニラみつけてやったが、
みゆきはまったく気にしていない。
「いいだろ別にー。
てか、みゆきだよあたしは」
「みゆき。ここって、校則ってないの?
破ったらペナルティとか」
慶子は頭にキていた上、
ピアノが弾けたことで有頂天になっていて、
みゆきに対して率直になっている自分に気付かなかった。
「ねぇよ別に」
「信じられない・・・。
それに、あなたインナーが見えるのが気にならないの?」
「インナーって、下着のこと?
別に減るもんじゃないし、良いだろ。
みんな保育園から知ってるヤツらばっかりだし」
「それでもダメ。軽くみられちゃうわよ」
「軽くみられるのか」
みゆきが拳と手の平を叩きつける。
乱暴な仕草に慶子はため息をついた。
「そういう意味じゃないわよ・・・。
女子として軽くみられるってこと」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。バカね」
うへへ、とみゆきが笑う。
なに笑ってんのこの子は。
「てかケーコってけっこうしゃべるんだな」
「このくらい普通でしょ」
2人が仲良くなるまでに時間はかからなかった。
ありがとうございました。
次話もよろしくお願いいたします。