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3話 ツマんな (みゆき)

クソ田舎の有象無象ども(みゆきを含めて)にとって、

転校生はヒマつぶしの題材として適任だった。


「みゆきー聞いた?」

「ああ?」


昼休みの廊下に、

転校生に関するうわさが飛び交う。


「でさー」

「へぇ。そうなん」


彼女は両親が離婚して、

母親と一緒に東京から引っ越してきた。


「ふーん」


街の端にあるクソ古いおんぼろアパートに住んでいる。

母親は近所のスーパーに就職したらしい。


「あっそ・・・」


読書が趣味で、大人しい。

血液型はB型。色が白い。


「はぁ・・・」


東京の学校で着ていたオシャレな制服は、

卒業まで着るらしい。


「・・・どうでもよくね?」


友達と昼休みの教室でギャアギャアしていると、

ふと1人になりたくなった。


いつもそうなのだ。

みゆきはなんだか一人になりたくなる瞬間がある。


「腹いてぇ。ちょっとトイレ」


嘘をついて教室から出ると、みゆきはわざわざ3階まで上がって、

静かなローカを歩いた。


「あーめんどくせぇ」


立てつけの悪くなった窓を開けて、

大きくため息をつく。


何だか気分が悪い。そういうときは音楽室だ。

あそこにはCDラジカセがある。


トントントーンと、軽快に階段を下りていく。

早く目的地にたどり着きたいが、みゆきはゼッタイに走らない。


「とーちゃーっく・・・・ん?」


音楽室のドアをスライドさせると、

そこには見慣れない姿があった。


うわさの転校生だ。

みゆきは居場所が取られたみたいでムッとする。


はぁ。めんどくさ。

テキトーなことを言って、どけてしまうか。


思いながら中に入ったとき、

みゆきは転校生が『おかしなこと』をしているのに気付いた。


「・・・?」


彼女はピアノの前に座って、鍵盤の上で指を動かしている。


転校生の手元をみゆきはじっと見つめた。


指がメッチャ早くて、動きがやわらかい。

素人ではないことは、誰が見てもあきらかだ。


すごい。

音楽の先生なんかよりも、ずっと上手だ。


だが、聞こえてくるはずの音色がない。

それもそのはず。


転校生は指を下に押し込まないようにしていたのだ。


「ハァ?

なにしてんだ・・・コイツはっ」


転校生の表情をカクニンするために、

ゆっくりと回り込む。


彼女はクチビルを折り曲げて、

痛みに耐えるような表情をしていた。


それを見たみゆきは、

無意識にぐりぐりと奥歯を噛んでいた。


「はぁ・・・?」


ハァ? 派ぁ? 葉ぁ? 波ぁ?


みゆきのイライラはメラメラと最高潮に達する。


つかつかとピアノの前まで行き、

転校生のほそっこい肩をわしづかみにした。


「なにしてんだおまえっ」


転校生がこちらを見た。

まるで泣いているみたいに目がうるんでいる。


「え・・・?

あの、その・・・ちょっ、痛っ」


彼女はめちゃくちゃビックリして、全身が脱力していた。

きっと腰を抜かしているのだろう。


「なにしてんだって、きいてんだよっ!」


みゆきは構わずに声をあげた。

もうわめいているといってもいい。


「あ、ご、ごめんなさい」


みゆきがスゴんで見せると、転校生の顔がみるみる青ざめた。

ヘビにニラまれたカエルちゃん状態である。


「わ、私が何か悪いことをしたのなら・・・謝ります」


転校生が頭を下げた。

それがなおさら、みゆきをジンジンと熱くさせていく。


「なに、あやまってんだ」


みゆきは転校生の肩をブンブンと前後に揺らした。

彼女の顔がガックンガックンなる。


「イェアっ・・・オァっ・・・デァっ」


怪獣に負けそうなウルトラマンじゃあねぇんだよ。

もうちょっとしゃきっとしろよ。


みゆきは転校生をまじまじと見た。

あんなにすごいことができるのに、コイツは。


コイツは、あたしを恐れている。

スーパーがひとつしかない、このクソ田舎も。


廃校寸前の大峰高校も。

昼休みに開放されている音楽室で自由にピアノを弾くことも。


「おまえピアノしたことあるんだろ」

「い、いえ・・・・」


「ウソつくのか」

「す、すみません・・・してました」


「このクソうそつきが!

今日からおまえはうそつきマンだ」


ウルトラマンに引っ張られちゃった。

うそつきマンってなんだよ、クソ。小学生か。


「うそつきマンなんてイヤっ。

それだけはイヤですっ。やめてください!」


おいおい。

真面目に返事をしてくるコイツもコイツだな。


「てか、ケイゴなんて使うな。しらじらしい。

同い年なんだよっあたしたちはっ」


「ご、ごめんなさい。

でも、私はもうピアノはしないの」


「なんでだよっ・・・チっ」


「・・・」

「・・・」


転校生が俯いてしまう。

困ったらダンマリかよこコイツ。


クソが。


何を怖がることがあるんだ。

勝手にしたらいいだろ。


どうせ何も起きないんだ。

こんなところで何したって。


「ピアノなんてこうすりゃいいんだよ!」


ばんばんと鍵盤を叩いてみせる。


「きゃ」


転校生が悲鳴をあげて仰け反った。

その手をつかんで引き寄せる。


ムリヤリ鍵盤に手を押し付けようとしたら、

転校生が強い力で抵抗してきた。


「や、やめて。もう、しないでっ」


「こんなのカンタンだろっ。

さっさと弾けっておらっ」


「い、いやぁ」


あれ、これってなんか

無理矢理女の子に言い寄ってる男みたいだな。


「ほらっ。

ちょっとだけだからっ。

恥ずかしいのは最初だけだからっ」


叫んだとき、みゆきの脳裏で記録会の情景が浮かんだ。

胸に触れるゴールテープがフラッシュバックする。


「・・・」


あれ? 

あたしって、なんでこんなにイライラしてるんだ。


なんでこんなに無理矢理ピアノ弾かせようとしているんだ。


「・・・やってみなよ」

「わ、わたしは」


「この意地っ張りがっ」


ガンガンと鍵盤を拳で叩いて、

転校生にぐっと顔を近づける。


転校3日目でこんなことをされたら、普通泣くだろう。

でも、彼女は泣かなかった。


「ったく。もういい。

おまえなんかぁ、どうでもいいんだよ・・・ケッ」


みゆきはケンカに負けた不良のような捨てセリフを吐いて、

音楽室を出た。

ありがとうございました。

次話もよろしくお願いいたします。

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