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2話 感じワルい (慶子)

藤村ふじむら 慶子けいこ


年が明けてすぐに、不仲だった両親が離婚した。


いろいろとゴタついたすえに、

慶子はお母さんの実家がある田舎に引っ越すことになった。


仲の良かった友達と別れるのはつらかった。


それ以上に、お母さんがお父さんを嫌いになるついでに、

慶子が5歳から続けてきたピアノの音まで嫌いになってしまい、

けっきょく辞めなくてはならなくなったのが、すごくイヤだった。


本当はやめたくなかった。


でも、お母さんには、

自分の気持ちを伝えることはできなかった。


私ってユージューフダンなところがあるから、

ちょっと考え始めると、何も言えなくなっちゃうところがあるんだ。


ピアノと別れたあと、どれだけ泣いただろう。

鍵盤の感覚が薄れてしまった頃になって、ようやく涙は枯れた。


お母さんの実家はずいぶんな田舎にあった。

自然があっていいところよ、とお母さんがまっ白な笑顔で言った。


確かに自然はたくさんあるね。

むしろ、自然しかない。

一時間に一度しか来ないバスに揺られながら思った。


荷解きは一日で終わり、

翌日は転校先である大峰高校への登校日だった。


大峰高校は、全校生徒22名で廃校寸前の学校である。


アスファルトの割れた上り坂と、

サビてぼろぼろになった校門を抜けていくと、

ところどころに雑草の生えたロータリーが見えた。


朝早くに到着した慶子を、

小川という優しそうな先生が迎えてくれた。


「担任の小川です。

よく来たわね。これからよろしくね」


小川がつるりとしたお饅頭みたいな顔の上に、

ニコっと笑顔を浮かべた。


優しそうで話がわかってくれそうな良い先生だ。

あー、よかったぁ。


安心しているのもつかのま、

すぐに教室に行く時間がきた。


小川とローカを歩いていると、

チコクしてきたらしい女子生徒に会った。


休み明けからチコクなんて、

フリョーな生徒かもしれない。


ここは警戒しておこう。

慶子は伏し目がちにして、小川のカゲに隠れた。


「・・・」


おそるおそる目を上げてみると、

視界の端に茶髪の毛先が見えた。


はぎゃ。


髪の毛が茶色なんだけど。

慶子はわが目をうたがって二度見をした。


「・・・お、おぅ」


うーん。

何度見ても、やっぱり茶髪だわ。


高校生なのに髪を染めているなんてコワい。

ちなみに、慶子の学校にはそんな生徒はひとりもいなかった。


極限まで短くされたスカート。

スラっと伸びた足。インナー見えたらどうするの。


じろじろみていたら、目が合ってしまった。

妙なメイクをしているから台無しだけど、彼女はキレイな人だった。


瞳に水分が多くて、キラリと光ってみえる。


慶子は向かい風にあったみたいに、

まばたきを繰り返す。


キレイで、強くて、何でもすぐに飛び越えていきそう。

失礼かもしれないけど、悩みなんてひとつもなさそうな顏。


ホント、私とは正反対な感じだわ。


みとれていると、彼女がため息をついて目をそらした。

きっと、慶子のように地味な子には興味がないのだろう。


「・・・」


あー感じワルい。

それに、こういうコワいタイプは苦手だ。


「よ、よろしくオネガイシマス・・・」


目をつけられないよう、

慶子は下を向いたままゴニョゴニョと挨拶をした。


3年生の教室は2階にあった。

ホントは3階まであるが、もう今は使われていないそうだ。


「今日は転校生が来ます」


小川の声に合わせて、おそるおそる教室に入ると、

慶子は10人の同級生と顔を合わせることになった。


男子は3人。女子は7人。

仲良くできそうな子はいないかな。


「藤村 慶子さんです。

みなさん仲良くしてくださいね。


じゃあ、簡単に自己紹介して」


小川に言われて、慶子はピアノを抜いた自己紹介をした。


「転校してきました、藤村 慶子です」


ああ、どうしよう。何を言ったらいいかな。


「し、自然がいっぱいですね。

ここは・・・」


「そうですね。

大峰高校の自慢は自然がいっぱいなところなの」


見かねた小川がフォローをしてくれた。

自分がいかにカラっぽな人間なのか気付かされる。


ぐはー。

ホントに私って、ツマんない。


「で、ですよねー。

よろしくお願いします」


もちろん、クラスの反応は良くなかった。

ありがとうございました。

次話もよろしくお願いいたします。

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