魚の小骨
旧友と話していたら、喉に魚の小骨が刺さって抜けない感覚に襲われる。正確には抜けないのではない。刺さっていたことに今し方気づいた、ただそれだけの話である。タンスの隅から隅を引っ掻き回したとて、目当ての物が見つかるとも限らないだろうに。異物感は今後とも残り続けるのだろう。如何とも言い難いこの感触に引きずられつつ粛々と過ごすしかない。喉まで出かかっているが、一向にしっぽを現さない。易々と捉え損なう。すぐそこにあるかのように思われるが、実際はどうなのだろう。微かな物悲しさと不条理、苦々しさがその近さ、そして遠さを教えてくれる。言葉が、言葉が。拭い去れない欠乏感に苛まれる。尽きることのない若々しさは不可逆的な老いのまさしくその証なのだ。表面を透けて現れる面影は何処か遠くに通り過ぎていく。我々に何かを告げようとしているのだろうか。語られる前からすんでのところで消え去っていく。網が荒すぎる。そんな文句を垂れても砂はこの手からこぼれ落ちてばかり。ついぞ留まることは無かったのだ。夢のような作り話。しかし、下を向いてばかりもいられない。実際若さは老いと相反しないし、ぐらぐらと揺れることも悪いことばかりではない。この素晴らしい夜に乾杯しようではないか。めぐる宿命にはそれ相応の対価が。謳われることのない道々にささやかな祝福を。