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仮定の未来を旅する  作者: 時井瑠奈
序章:旅の始まり
2/2

商人との出会い

これは、ある日のことだった。


今までの研究が終わり、新しい研究はどういったものにしようかとなどと考えながら森の中を歩いていると、少し離れたところから何かが聞こえてきた。

少し耳をよくする魔法を使って音を聞いてみると、どうやらヒトが喋っているらしい。久々に見るヒトに少し興味を持ち、何を喋っているのか耳を立ててみる。


「どうしよう、俺はこれからどうすればいいんだ。金もない。馬車もない。もう何もない。家にも帰れないだろう。ならいっそ、あの魔物に殺されてしまったほうが…」


ふむ、どうやら自殺志願者のようだ。

まったく、こんな森で自殺などと、はた迷惑でしかない。

死ぬのは勝手だがわざわざこんなところで死ななくてもいいのに。

とはいえ、何か訳ありのようだし少しくらいは話を聞いてみるのもいいだろう。

魔法で自分の移動速度を上げ、声のもとに近寄ってみる。

するとそこには体中に多少のかすり傷に土で汚れた服を着た息を切らした中年の男が木に寄りかかって座り込んでいた。


「お兄さん、どうしたのですか?良ければ話を聞きますよ。」


軽く話しかけてみるとその男はかすれた声で言った。


「誰だ君は。こんなところに人がいるわけ…。あぁ、もしやここは天国なのだろうか。ということは、あなた様は神なのですか?」


どうやらこの男はかなり頭が混乱しているらしい。

まぁ、姿を見てこのような様になっているおおよその理由は分かった。

おおかた魔物と鉢合わせて戦闘にでもなって、負けたから逃走してきたのだろう。

このまま放置してもいいのだが、こんなところで野垂れ死なれても迷惑なだけだ。

多少助けてやるくらいはいいだろう。とりあえず傷でも治すとするか。


「とりあえず傷を治すから、お兄さん動かないでね。」

「これは…傷が治っていく。あれ、ここは…森の中か?私は一体なにを…あっ、そうだ。魔物に襲われて逃げている最中だ。クソ、これからどうすれば…」

「おにいさん。おにいさん?聞こえてる?おーい。」

「ああああ、私は一体どうすれば。あの魔物は倒せないし、でもここから歩いてじゃ街に着く前に野垂れ死んでしまう。もう…死ぬしか…」


どうやら傷を治したところで彼の自殺願望は変わらないらしい。はぁ、どうしたものか。

ふむ、ところで今面白いことを言ったな。「死ぬしかない」か。本当にそうなのだろうか、少し見てみるか。もし私がこのまま去ったとしたら、彼はどうなるのだろうか、ふふ、興味深い。


***

「もう俺は死ぬしかない、それしか道がない、希望もない。はは、まさかこんなに早く死期が来るなんて、悲しさすら感じ取れないよ。」


まさか、本当ただ自殺するのか?そんなことは許さないぞ?


「待て、本当に俺は死ぬことしかできないのか?いや、まだ何かできるはずだ。よく分からないが、神が私の傷を治してくださった。これで私は自由に動けはするのだ。少しは生きながらえることもできるだろう。さて、とりあえずなにをしようか。…腹が減ったな。食べ物でも探そう。」


ほう。なんだかんだ生きようとはするんだな。感心感心。

とはいえ、この森で生きるというのはそれなりに難しいことで、普通の人間にとっては猶更だ。なぜならこの森は世界で最も恐ろしいと言われている、世界有数の魔物の住処、アメーバ大魔林だからだ。

まぁ、どう生きるのか楽しませてもらおう。


***

うん、死んだな。まぁ当然か。案の定魔物に鉢合わせて殺される。なんともみじめな死にざまだ。

まぁ、思ったより面白かった。ちゃんと生きようとするのだな。なら、まぁ救ってやってもいいか。


「あの、お兄さん、聞こえてますか?返事してくださいよ。」

「ん……君は…誰だ?なぜこのような森の奥に君のような若い子が?もしや迷子か?」

「いや、それはお兄さんでしょ。それに、私は若く見えるかもしれないけどだいたい300歳のお爺さんだよ。ちゃんと敬ってよね。」

「は?いやいや、どういうことだ?君が300歳?そんなわけ…」

「まぁ、年齢なんてどうだっていいんだよね。そんなことより、お兄さんこんなところでどうしたの?」

「え、いや君のような若者に行ったところでどうにもならないだろう?」


ふむ、一発殴ってもいいだろうか、さすがに腹が立ってきた。私は短気なほうなのだ。

まぁ、一度決めたことだし、ちゃんと助けてやろう。


「はぁ、おおかた道中魔物に襲われて逃げてきたんだろう?君の話を聞いたところ、馬車か何かにでも乗ってきたがそれが壊されてしまい移動手段もなく、どうしようか迷っていたところで私にあったといった感じかな。」

「お…おぉ、まぁそんな感じだが。よくわかったな。」

「まぁ、伊達に300年生きてないんでね。とりあえず、ウチくる?」

「うち?」

「そう、私の家。」


                                                               

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