エピローグ5
「そういえば冬さんとこも、子供が孫を連れち帰ってくるそうやないか」
吉蔵さんが、今朝方、冬次郎さんから聞いたばかりの話を教えた。
「冬さんもうれしかろう。ずっとさびしそうやったからなあ」
おツネさんが思いやるように言う。
「和子もそうやが、まさか帰っちくるなんち、思うちょりもせんやったからな」
「そりゃあ、お守りのゴリヤクやで。吉蔵さん、あんたん作るお守り、まことゴリヤクがあるんや」
お夏さんが真顔で言う。
「いや、ドングリ号のおかげや。みんな、ドングリ号のゴリヤクや」
吉蔵さんは照れくさそうに笑って返した。
そこへ……。
手をつないだ喜八とミツの夫婦がやってきた。
「今日も仲ようデートか」
「いつでん仲のいいことやなあ」
吉蔵さんとおツネさんが二人をひやかす。
「なんがデートなもんか。神社の掃除んあと、こっちに寄っただけや。でな、こん人がこけんよう、こうしちつかまえちょるんや。こんとおりヨボヨボしちょるけん、あぶのうてなあ」
ミツさんが笑いながら返す。
「そげんことはねえ」
喜八さんは強がりを言ったが、ミツさんの手はしっかりとにぎっていた。
「ここに来るとき、スナばあと鶴じいにおうたで。二人よろうち、コスモスん種、道ばたにまきよった」
「鶴じい、腰がピーンと伸びちょって、おどろくほど元気やわ」
喜八夫婦が感心したようすで伝える。
「秋には駅からここまでん道、コスモスん花でにぎやかになるなあ」
お夏さんは小屋から出てくると、腰に手を当て、まぶしそうに空を見上げた。
春の暖かな陽射しが栗原村に、鉱山跡に、老人たちの小さな肩に降り注いでいた。
最後にドングリ号。
あれから空を飛んだという話は聞かない。
だが満天の星の夜。
淡いブルーの光につつまれることがあるという。
そしてその夜は、ドングリ号の汽笛の音が聞こえるらしい。
最後までお付き合いただき嬉しく思います。
作者及び栗原村住人一同より




