エピローグ4
昼食時を過ぎたドングリ食堂。
この時刻を見はからったように、徳冶さんがフラリと顔をのぞかせた。
「これ、あんた。また、ここに来ちから。家でおとなしくしちょらんかえ」
妻のトキさんが背中を押して追い返そうとする。
「まあ、そう言わんと。なんたち徳さんにゃ、だれもかなわんからな。あんとき徳さんがおってくれんかったら、いったいどげえなっちょったことか」
おスミさんが徳冶さんの手を引いて、食堂の中に招き入れた。
「そうや、そんとおりやで」
「徳さん、まあダンゴ汁でん食べたらいいがな」
おツネさんと菊さんも片付けの手を休め、厨房から顔を出して徳治さんに声をかける。
「ヘヘヘ……」
徳冶さんは隅っこの椅子に腰をおろすと、ちゃっかりワリバシを手に取ったのだった。
一方、鉱山跡の切符売場。
ここへ来るには、清流駅から続く軌道敷沿いの道を歩いて登る。駅からは近いので、年寄りの足でもたいして時間はかからない。
その道を――。
吉蔵さんが車椅子を押して登ってきた。
「タマさん、今日も散歩やな。このごろ、ずいぶん顔色がようなったやないの」
切符売場の窓口から、お夏さんが車椅子に座ったタマさんに声をかけた。
「まだよう歩けんが、それでんちっとずつ、ようなりよる気がするんよ」
タマさんは振り返って、夫の吉蔵さんの顔を見やった。
視線に気づいた吉蔵さんが満面笑みで話す。
「夕べ、和子から電話があってな。病院やめち、村に帰っちくるんだと」
「よかったやないか、タマさん」
おツネさんが小窓から顔をのぞかせる。
タマさんは小さくうなずいてから、ふたたび吉蔵さんの顔を見やった。
「そしたらこん人、もっとお守り作れるけん。それにな。お守り作りよんときの、こん人。そりゃあ、うれしそうでなあ」
「ワシな、あんなん作るん好きなんや。そやから、あんなんで喜ばるんなら、なんぼでも作るわ」
「そりゃあ、綾乃さんもたいそう喜ぶわ。すぐに売り切れるそうやから」
おツネさんもうれしそうだ。
―栗原村住人たちの紹介―
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
綾乃さん……東京生まれの東京育ち。夫が栗原村出身であり、夫の死後も村で暮らしを続ける。
徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。
トキさん……徳治の妻。認知症の徳治の世話に追われている。
吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。
タマさん……吉蔵さんの妻。脳梗塞で倒れて以来、体半分の自由を失う。
おスミさん……夫の戦死で嫁ぎ先から村にもどる。以来、再婚もせず村で暮らす。吉蔵さんの姉。
ミツさん……喜八さんの妻。夫の体の具合をいつも心配している。
おツネさん……離婚して村にもどって以来、ずっと独り暮しをしている。




