エピローグ2
有人駅となった清流駅。
駅長にはゴンちゃんが着任した。
真新しい駅長の制服と帽子。改札口で切符を切る姿など、駅長としてなかなかサマになっている。
駅長の仕事は一日じゅう忙しい。毎日、切符切りや構内の清掃にと雑事にも追われていた。
「冬さん、どうや? 金ん勘定、うまくいきよるか」
ゴンちゃんが構内の見まわりついでに、切符売場の窓口に向かって声をかけた。
「このごろ、やっとまちがわんようになったわ」
冬次郎さんは切符を売りながら、売り上げの勘定を帳簿につけていた。以前のように昼間から酒を飲んでいるひまはない。
ゴンちゃんは切符売場をあとにすると、隣にある売店に足を運んだ。
売店には綾乃さんがいた。
東京では長いことデパートで働いていたので、こうした店のお客相手にはなれている。
「これ、よう売れよるみたいやのう」
ゴンちゃんがお土産のひとつ――青い袋のお守りをつまんで声をかけた。
「ええ、なかなか評判なんですよ。すぐに売り切れるので、吉蔵さんにたくさん作ってくれるよう、お願いしてるところなんですわ」
綾乃さんが笑顔をのぞかせる。
売店ではジュースやお菓子のほか、土産品としてドングリのついたお守りを売っていた。
そのお守りの袋には、ドングリ号を描いたお札が入れてある。さらに口ヒモには、栗原村でとれたドングリがひとつ結えてあった。
お守りのことを発案し、作り始めたのは吉蔵さんである。タマさんを看ながらでもやれると、介護の合間にひとりでこつこつと作っている。
駅前の空き地。
そこに十人ほど座れる食堂を建てた。
名前はドングリ号からいただいて、ドングリ食堂。
おツネさん、トキさん、おスミさん、菊さんの四人が、観光客相手に忙しく立ちまわっている。ダンゴ汁やヤセウマなど手作りの郷土料理が、都会から訪れる観光客にたいそう好評だった。
―栗原村住人たちの紹介―
吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。
タマさん……吉蔵さんの妻。脳梗塞で倒れて以来、体半分の自由を失う。
菊さん……夫を鉱山の落盤事故で失って以来、女手ひとつで三人の子供を育てあげる。
おスミさん……夫の戦死で嫁ぎ先から村にもどる。以来、再婚もせず村で暮らす。吉蔵さんの姉。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。
ミツさん……喜八さんの妻。夫の体の具合をいつも心配している。
おツネさん……離婚して村にもどって以来、ずっと独り暮しをしている。




