表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/83

お別れの夜7

 新吉さんから少し離れた背後では、六人のグループが大きな輪を作っていた。酒とツマミをかこむようにして、なにやら声高にしゃべっている。

 そうしたなか。

 弥助さんが吐き捨てるように言った。

「クソー。どう考えてん、腹ワタにえくり返っちくるわ」

「ワシも頭に血が昇っちきたわ。外に行っち、ちょっと冷やしちくるけん」

 はす向かいに座っていた喜八さんが、そう言って立ち上がろうとするのを……。

「ひとりじゃあぶねえけん、ウチもついちいくわ」

 寄りそうように座っていた妻のミツさんが、喜八さんの腕を取って立ち上がった。

「ほんに仲んいい夫婦やこと」

「カケオチまでしち連れ添うただけあるわ」

 そばから見上げて、おツネさんと冬次郎さんが矢継ぎ早に二人をひやかした。

「そんじゃあ、デートしちくるか」

「星もうーんと出ち、ロマンチックな夜やけんな」

 喜八夫婦は負けじとやり返すと、酔いざましの散歩に出かけていった。

 公民館の外は、秋の虫たちがせわしく鳴いている。

 涼しい夜風が吹いていた。


 弥助さんは腹の虫がおさまらないとみえ、先ほどの話の続きを始めた。

「それにしたっち、ひでえ話じゃねえか。かわりのバスも走らせちくれんのやからな」

 この怒りのほこ先は、大分市内にある鉄道会社の本社である。

 その本社は今年の春から、県内全域の赤字路線の合理化に手をつけ始めた。で、その白羽の矢をまっ先に立てたのが、豊後森の町から栗原村への引込み線であった。

 この引込み線。

 鉱山の閉鎖により、一番の収入源であった貨物の輸送が廃止された。その後、乗客は年を経るにつれ減少し、現在は走るほど大きな損を出していた。それにもかかわらず、これまで廃線にならなかったのは、ひとつ理由があったからだ。

 現在では蒸気機関車そのものが珍しい。写真撮影など、蒸気機関車を目当てに訪れる鉄道ファンがそれなりにいた。つまり、会社のイメージアップ目的で存続させていたのだ。


―栗原村住人たちの紹介―


元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。

お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。

新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。

綾乃さん……東京生まれの東京育ち。夫が栗原村出身であり、夫の死後も村で暮らしを続ける。

徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。

トキさん……徳治の妻。認知症の徳治の世話に追われている。

吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。

タマさん……吉蔵さんの妻。脳梗塞で倒れて以来、体半分の自由を失う。

菊さん……夫を鉱山の落盤事故で失って以来、女手ひとつで三人の子供を育てあげる。

スナばあ……九十七歳で村一番の高齢者。独り暮らしだが、いたって健康。

おスミさん……夫の戦死で嫁ぎ先から村にもどる。以来、再婚もせず村で暮らす。吉蔵さんの姉。

鶴じい……九十歳なかば。踊ることが趣味。息子が一人いたが戦死する。

ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。

弥助さん……鉱山が開業してからは農業をやめ、閉山するまで鉱山で働く。独り暮らし。

喜八さん……高齢のため足腰がめっぽう弱い。妻はミツさん。

ミツさん……喜八さんの妻。夫の体の具合をいつも心配している。

冬次郎さん……妻と死別し、子供が帰省しなくなってからアルコール依存症となる。

庄太郎さん……鉱山のダイナマイトの爆破事故で右手の手首から先を失う。

おツネさん……離婚して村にもどって以来、ずっと独り暮しをしている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ