エピローグ1
半年が過ぎ春を迎えた。
あれから……。
栗原村はどうなったのか?
そしてドングリ号は?
結論から言えば――。
住人たちは毎日よき朝を迎えていた。徳治さんの発声どおりとなったのである。
あの一夜の大騒動、鉄橋やトンネルの爆破などが鉄道会社の仕組んだことだとわかり、栗原村の住人たちにはたいしたおとがめもなかった。
村も少しずつ変わろうとしている。
事件以来、観光客が村を訪れるようになった。それも全国各地からで、しかもかなりの人の数である。
もちろん目当てはドングリ号に乗ることだ。
鉄道会社にとってお荷物の引込み線は会社の手をはなれ、今では栗原村住人たちに移っていた。引込み線の運営を、村でまるごと借り受けたのだ。それもまったくの無償で。
さて、ドングリ号。
今は空を飛ぶなんてことはない。
ごくあたりまえに石炭を燃料として、ごくあたりまえに線路敷の上を走っている。
無人駅だった清流駅。
住人たちが管理を始めてからは、駅員の常駐する有人駅に生まれ変わっていた。構内には切符売場が新設され、さらに小さいながらも売店もある。
元作さんは以前のように運転士として、豊後森駅との間を一日四往復の運転をしていた。
この日、朝一番。
「午後の便、そろそろひとつ増やさんとなあ」
「そうやな。昨日も乗れんお客さん、豊後森でぎょうさん出たからな」
いつものように機関車の整備をしながら、元作さんと新吉さんの二人が話をしている。
この半年間……。
ドングリ号は乗客が増えるにつれ、走る回数を徐々に増やしてきた。今では午前と午後それぞれ二往復していたが、それでも豊後森駅で切符を買えなかったお客があふれている。
「今日でん増便のこと、豊後森ん駅長にかけおうちみるわ。それで今ん仕事、もっときつうなるけど、腰の方はだいじょうぶか?」
「ああ、もう痛くねえ。スコップん使い方、だいぶなれちきたけん」
新吉さんは機関士になり、スコップで石炭を釜に投げ入れる作業をしている。きつい作業に、しばらく腰を痛めていたのだ。
「そんでは、はりきっちもらわんとな」
元作さんが笑顔を返す。
「もちろんや。オレ、今ん仕事おもしれえんや。それにな、お客さんが増えるんもうれしいんよ」
走る便が増えるにつれ、元作さん一人で運転士と機関士の両方をこなすことがむずかしくなった。そこで村で一番若い新吉さんが、重労働となる機関士になったのである。




