表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/83

ドングリ号に乾杯4

 いつかしら……。

 朝の光が駅舎の屋根にほんのり射していた。

 早起きのスズメたちが、駅舎の屋根先をはねながらさえずっている。朝の訪れを喜ぶかのようにチュンチュンと鳴き合っていた。

 そして、その朝の訪れに気づかないほど、住人たちはみな真剣に考えていた。

 お夏さんの提案――いかにすればだれとも争わずにドングリ号が栗原村に残れるかを……。

 だが、鉄道会社とはさんざんケンカしたあとだ。いい案などあるはずもなく、互いの顔を見合っては、だれもが力なく首を振るばかりだった。

 そんななか、徳冶さんがいきなり立ち上がって叫んだ。

「朝じゃあー」

「これ、あんた。なにを言い出すんよ。みんなが真剣に考えよんときに」

 トキさんが急いで徳冶さん腕をつかんで座らせようとする。

 このとき。

 全員の視線が徳治さんの口元に集まっていた。かたずをのみ、徳治さんの次の言葉を待っている。

 その熱い視線に気づいたトキさん、つかんでいた夫の腕をあわててはなした。

「朝じゃあー」

 徳冶さんがふたたび叫んだ。

「なあ、あんた。朝だけじゃ、わからんやろうが。朝だから、なんやね」

「カンパイじゃあー」

 徳冶さんが三たび叫んだ。

「みんなあー、徳さんの言うとおりにするんや。酒の用意して、すぐに乾杯や」

 お夏さんが乾杯を急がせる。

 徳冶さんの言葉の真意をつかめぬまま、全員が湯呑茶碗やコップを手にし、たがいに酒をつぎ合った。

「ほれ、あんたもや」

 トキさんが夫にも酒の入ったコップを持たせる。

 徳冶さんはコップを高々と持ち上げた。それからひときわ大きな声で乾杯の発声をしたのであった。

「朝じゃあー、カンパーイ」

 全員が声をそろえて乾杯をする。

「朝じゃあー、カンパーイ」

 同時に。

 ドングリ号も乾杯の汽笛を鳴らした。

 ブゥオー、ブゥオー。


―栗原村住人たちの紹介―

お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。

徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。

トキさん……徳治の妻。認知症の徳治の世話に追われている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ