ドングリ号に乾杯2
「駐在さん、吉蔵さん、起きるんや」
「おい、喜八さん、起きちくりい」
ゴンちゃんに吉蔵さん。
喜八さんとミツさんの夫婦。
それからお夏さん、菊さんが目をさます。
綾乃さん、おスミさん、弥助さん、冬次郎さん。
トキさん、おツネさん、庄太郎さん。
スナばあと鶴じいも。
それぞれみんな、深い眠りから次々と目をさましていった。
そして最後に……。
トキさんにゆすり起こされ、徳治さんが今度こそ目をさました。キョトンとしているのはあいも変らずであったが……。
「さすがドングリ号やのう。爆弾を持ったヘリにも負けんかったんや」
お夏さんはうれしそうだ。
「そうや、ヤツら爆弾を撃ってきたんやった」
元作さんはあわてて窓を押し上げ、それから顔を左右にのぞかせた。
「どうもなってねえ。爆弾、あたらんかったんや」
「あたりまえやねえか。あたっちょったら、ワシら今ごろあの世やからな」
ゴンちゃんが笑って答える。
「それもそうやなあ」
元作さんも笑った。
みんなもいっしょになって笑った。
住人たちの笑い声が久しぶりに車内にあふれる。
新吉さんが思いついたように問うた。
「なあ、元作さん。これからどうなるんかのう?」
「ただじゃすまねえ気がする。たいそうなことをやったんは、まちがいねえからな」
「なら、またなんか?」
「たぶんな。どげなもんかわからんが、会社がドングリ号を取りあげにくるんはまちがいねえ」
「ところで元作。オメエ、ドングリ号は鉄道会社のもんや、そう言ってたな」
お夏さんが確かめるように聞く。
「ああ、そうや。じゃから取り上げられてん、なんも文句は言えんのや」
「やっぱりな」
お夏さんは小さくうなずくと、それきり考え込むように黙ってしまった。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
綾乃さん……東京生まれの東京育ち。夫が栗原村出身であり、夫の死後も村で暮らしを続ける。
徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。
トキさん……徳治の妻。認知症の徳治の世話に追われている。
吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。
タマさん……吉蔵さんの妻。脳梗塞で倒れて以来、体半分の自由を失う。
菊さん……夫を鉱山の落盤事故で失って以来、女手ひとつで三人の子供を育てあげる。
スナばあ……九十七歳で村一番の高齢者。独り暮らしだが、いたって健康。
おスミさん……夫の戦死で嫁ぎ先から村にもどる。以来、再婚もせず村で暮らす。吉蔵さんの姉。
鶴じい……九十歳なかば。踊ることが趣味。息子が一人いたが戦死する。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。
弥助さん……鉱山が開業してからは農業をやめ、閉山するまで鉱山で働く。独り暮らし。
喜八さん……高齢のため足腰がめっぽう弱い。妻はミツさん。
ミツさん……喜八さんの妻。夫の体の具合をいつも心配している。
冬次郎さん……妻と死別し、子供が帰省しなくなってからアルコール依存症となる。
庄太郎さん……鉱山のダイナマイトの爆破事故で右手の手首から先を失う。
おツネさん……離婚して村にもどって以来、ずっと独り暮しをしている。




