ドングリ号に乾杯1
夜明けが近づくにつれ、星たちは役目を終えたかのように輝きを淡くさせていった。
栗原村への引込み線。
茶色にうれたドングリの実が、風の吹くたびに枝から離れ落ちてゆく。線路敷の小石に、レールに、そして枕木に、ここちよい音をたててはねる。
またひとつ。
ドングリの実が風に吹かれ枝先から離れた。
その実は地面まで落ちることはなかった。
ガラスの割れた車窓から飛び込み、眠っている老人たちの足元をコロコロと転がった。
蒸気機関車の名前の由来のごとく……。
ドングリ号が栗原村に帰ってきた。
栗原村住人たちの、それぞれが生きてきた証を乗せて。これから生きてゆくためのエネルギーを乗せて。
さて、ドングリ号の車内。
住人は、だれもが眠っていた。深い、深い眠りの底に落ちていた。ドングリ号が青龍に姿を変えた、あのときから。
だから知らない。
住人たちは知らない。
ドングリ号が青龍に姿を変えたことを。流れ星のように一瞬で、天空をかけ抜けたことを……。
ドングリ号が清流駅のホームに停車した。
ブゥオ、ブゥオ、ブゥオー。
汽笛の音をひときわ大きく鳴らし、住人たちを深い眠りから呼び起こす。
穴の底から浮き上がるように、まず一番に元作さんが目をさました。
元作さんは目をこすってから、車窓の外――ほの暗い景色を見て、あわてて新吉さんの肩をゆすった。
「新吉、帰っちきたぞ!」
新吉さんは首をグルリとまわし、やはり構内を見て声をあげた。
「ほんとや、無事に帰っちきたんや」
「みんなを起こさにゃ」
「そうやな、早く教えてやらんと」
二人は名前を呼びながら、住民一人ずつ起こしてまわった。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。




