万歳! ドングリ号2
「みんなあ、ドングリ号に万歳しようやないか」
お夏さんは通路に立つと、両手を振り上げて大声で叫んだ。
「ドングリ号ー、バンザーイ」
みんなも声をそろえ万歳をする。
「ドングリ号ー、バンザーイ」
ただ残念なことに、もっとも活躍した徳冶さん。このめでたい万歳に参加できないでいた。いまだ気を失っていたのだ。
そんな徳冶さんに、お夏さんがいたわりのまなざしを向けて言う。
「またしても徳さんのおかげやのう」
「ほんとや。ドングリ号が空を飛ぶなんち、だれも思いつかんこっちゃけん。徳さん頭がボケち、神様みたいになったんやのう」
吉蔵さんは妙なほめ方をした。
「そげえにおだてん方がいいって。ボケじじいの、ただのまぐれなんやから。ハハハ……」
妻のトキさんがうれしそうに笑いとばす。
「ドングリ号と別るんのが、なんともなごり惜しゅうなったよなあ」
お夏さんはしんみりと言って、それから元作さんに向き直った。
「おい、元作。ドングリ号は鉄道会社のもんか?」
「ああ。村にある駅はもちろん、鉄道の敷地もレールも、みんな鉄道会社のもんや」
「そんではどうしてん、今夜でお別れになっちまうんやな?」
「そうや。みんなも知ってのとおり、ほんとは昨日がお別れやったけん」
「どうしてもかのう?」
新吉さんも無念そうである。
「そりゃ、そうや。こんままじゃ村んもん、泥棒になっちしまうやないか」
そう答えたが……。
ドングリ号と別れたくないのは、だれよりも元作さん自身なのであった。
ブゥオー。
ドングリ号が汽笛を鳴らす。
その音色は泣いているかのようで、悲しく、どこまでも悲しく、星空のかなたまで響き渡った。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。




