万歳! ドングリ号1
なぜ、蒸気機関車が空を飛べたのか?
その答えはいたって簡単である。次の場面を思い起こしていただきたい。
「総隊長殿、おどしがきいたようです。一名、姿を見せました。手を振って、なにかわめいているようであります」
これは先ほどの隊員の会話である。
ここに登場した人物、実は徳冶さんだったのだ。
このときの徳治さん、理由もなく手を振り、意味もなくわめいていたのではない。
こう叫んでいたのだ。
「飛ぶんじゃー。ドングリ号ー、空を飛ぶんじゃー」
この徳治さんの号令で、ドングリ号は空へと舞い上がり飛んだのである。
その徳治さん。
今は気絶をしている。わずかに残っていた最後のエネルギーを使い果たし、堂々と気を失っていた。
満天の星のもと。
ドングリ号は空を飛んでいた。青龍が天空を飛ぶがごとくに……。
さて、ドングリ号の車内。
澄みきった大気にきらめく星たちが、車窓から手を伸ばせば届きそうである。
「宇宙船に乗ってるみたいや」
新吉さんは窓から顔を出し、夜空に咲く星座をながめながら感激している。
「ほんとやなあ」
元作さんも目を細めて見とれている。
この二人だけではない。
少しばかり眠ったおかげで、みながエネルギーを回復していた。先ほどまでの恐怖はどこ吹く風、まるで子供のようにはしゃいでいる。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。




