ドングリ号 危機一髪2
元作さんと新吉さんは窓枠にほおづえをつき、車窓の外に流れる風景をぼんやりながめていた。
「なあ元作さん。ここ、どこん町か?」
「小倉や」
「小倉ちゅうたら、たしかそん向こうに、海ん下を通るトンネルがあるやろう」
「ああ、関門トンネルちいうてな、それをくぐったら下関で、大阪までつながっちょる。で、反対方向は博多ん方になるんや」
「大阪と博多か……。ドングリ号、どっちに行くんやろうか?」
「オレらが行きてえ方やと思うがな」
「ならどっちに行くんか、早よう言ってやった方がいいんでは?」
「そうやな、じきに小倉駅やし」
元作さんは隣の席に目を向けた。
そこには目を閉じたお夏さんがいて、ずいぶん前からコックリ、コックリと船をこいでいた。
ほかの者たちもおとなしくなっていた。
だれもかれも睡魔と疲労がピークに達していたのだ。
座席で眠っている者。
酒をチビチビ飲んでいる者。
外の景色をつくねんとながめる者。
全員の顔に疲れの色がはっきり見てとれた。
「お夏さん、ちょっと起きちくれんか」
元作さんが肩をゆすると、お夏さんはおどろいたように目を開けた。
「なんかあったんか?」
「いや、なんもねえ。ただな、もう朝の三時や」
「なんや、もうそげな時刻か。ところで、どこを走りよんのや?」
「もうじき小倉駅や」
「小倉ちゃ、えれえ遠くまで来たやないか」
「でな、そろそろ帰った方がいいんやなかろうか、そう思うてな」
「で、どうするんや? あんトンネル、まだ片方がふさがっちょるんやぞ」
「博多ん方にまわっち帰りゃいいんや。そっちからでも帰れるけんな」
「なら、そうするか。それで村に着くんは何時ごろになる?」
「そうやなあ、たぶん六時ごろやと思うけど」
「じゃあ、まだまだやな」
お夏さんは目を閉じると、それからすぐにスースーと寝息をたて始めた。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。




