負けるな! ドングリ号13
機関車が姿を現すと、それを待っていたかのように、星たちがいっせいに青い光を浴びせた。
ブゥオー。
ドングリ号が星空に向かって汽笛を鳴らす。
ガッ、ガッ、ガァー、ガッ、ガッ。
鉄の車輪が勢いよく、線路敷に残った土砂を両脇にけ散らしてゆく。
機関車に続き客車もトンネルから姿を現した。
車窓をとおし、星明りが車内に射し込む。
「おー」
「やったぞー」
住人たちは歓声をあげて立ち上がり、そばにいる者らと手を取り合った。
「もう、ダメかと思うたわ」
「けんど、よう出られたのう」
「さすが、ドングリ号や」
だれもが満面笑みである。
そうしたなか……。
ひとりボーとしている徳治さんに、お夏さんがそばに行って声をかけた。
「徳さんや。助かったん、あんたのおかげやで」
「こげえにボケてん、生きとりゃ役に立つこともあるんやなあ。ほれ、あんたほめられたんよ」
トキさんが腕をつかんで教えるも、徳治さんはあい変らずキョトンとしている。
「あんなにしっかりもんやったのに」
「そんとおりや。村ん世話、いつでんまっ先にしよったもんなあ。右手んねえワシ、どんだけ徳さんの世話になったかしれん」
庄太郎さんが徳治さんを見てうなずく。
「そうやったなあ。オレもずいぶん、徳さんにかわいがってもろうたもんな。田んぼん作り方、いつも教えちもろうたし」
新吉さんも目を細めて見ている。
「それに総代しよったころの徳さん、神社ん世話、いつもしてくれよった。オレ、駅からな。掃除や草刈りをしよる徳さん、よう見かけたもんや」
元作さんは思い出すように話した。
セイリュウ神社は豊後森神社の管理下にあり、祭祀は昔からそこの宮司がつとめている。この宮司とのやり取りをしていたのが徳治さんで、長い間、セイリュウ神社の総代を務めていたのである。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。
トキさん……徳治の妻。認知症の徳治の世話に追われている。




