負けるな! ドングリ号8
トンネルの中は薄暗かった。
内壁の蛍光灯は爆破で停電しており、車窓を通してもれ出るドングリ号の明かりだけが頼りだ。
三人はトンネルの壁に沿って、ドングリ号の最後尾にまわった。その先は土砂で完全にふさがれている。
「すげえ土砂やな。それに、コンクリんかたまりもゴロゴロあるやないか」
元作さんは足を止め、目の前のうず高く積もった土砂を見上げた。
「スコップなんかじゃどうにもできんぞ」
新吉さんは腹立たしそうに、手にあるスコップを土砂に突き立てた。
「ああ、ワシらじゃどうにもならん」
冬次郎さんもあきらめ顔である。
出口をふさぐ大量の土砂になすすべもなく、三人は肩を落とし、みなの待つ客車にもどったのだった。
「土砂をどかすんは、とうてい無理や。なんたちすげえ量やったけん。それに、こげん大きなコンクリんかたまりもあった」
元作さんは手振りをまじえ、トンネル出口の悲惨なありさまを伝えた。
「どうしようもねえかった」
新吉さんが顔をしかめて言う。
「気にせんでいい、オメエらのせいやねえ」
お夏さんは三人をなぐさめ、それから独り言のようにつぶやいた。
「そうか、ダメやったか……」
エネルギーあふれるこの集団も、気持ちだけではどうにもならないことがある。前にもまして、空気の抜けた風船のごとくしぼんでしまった。
「あんときみたいじゃ」
庄太郎さんが失った右手の先をじっと見つめる。
あんときとは鉱山が最盛期だったころ。
坑道は下へ下へと幾層にも重なり、右に左にと幾筋にも枝分かれし、まるで迷路のように複雑となっていた。そうしたある日、ひとつの坑道でダイナマイトによる落盤事故が発生し、栗原村の者を含む十数名もの死傷者が出たのである。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
冬次郎さん……妻と死別し、子供が帰省しなくなってからアルコール依存症となる。
庄太郎さん……鉱山のダイナマイトの爆破事故で右手の手首から先を失う。




