負けるな! ドングリ号7
ゴンちゃんがすぐさま反応する。
「そんとおりやで。穴を掘ってでん、ここから出ろうやねえか」
「そうや、スコップがあったんや」
さっそく新吉さんは、座席の下から三本のスコップを取り出した。元作さんが清流駅の倉庫から賊退治の武器として持ち出したものである。
「ワシ、穴を掘るんは得意じゃけん。新吉、一本よこすんや」
弥助さんがスコップに手を伸ばす。
長い間、弥助さんは鉱山の坑内で働いていた。金鉱石を採掘する作業をしていたのだ。
「なあ、弥助さん。ここは、わけえもんにまかせた方がいいで」
高齢の弥助さんを気づかって、お夏さんが背中をたたいて押しとどめようとした。
「なあに、まあ見ちょれ」
弥助さんは強引にスコップをつかむと、元作さんがするように窓から顔を出して大声で叫んだ。
「ドングリ号ー、ドアを開けろー」
ガッ、ガ、ガ、ガー。
ドングリ号が乗降ドアを開ける。
弥助さんはスコップを手に、開いたドアの前に勇んで立った。
が、すぐに振り返る。
「ねえ! 地面がねえぞ」
今はトンネルの中である。プラットホームがないのは当然で、線路敷まで一メートルを超える高さがあったのだ。
八十を過ぎての老人が飛び降りるのはさすがに無理である。弥助さんは開いたドアを前にして立ち往生してしまった。
「こりゃあ、飛び降りるしかねえな」
元作さんはそう言って、ヒョイと線路敷に飛び降りた。
「弥助さんには、ちと無理んごとあるのう」
新吉さんは笑いながら、弥助さんの手からスコップをかすめ取った。それからドアの枠につかまり、「そりゃ」と声を出して飛んだ。
続いて冬次郎さんが、残りの二本のスコップを元作さんに手渡し、自分も飛び降りた。
「くたびれたら、すぐにかわってやるけんの」
ゴンちゃんが声をかけ、スコップを手にした三人の背中を見送った。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。
弥助さん……鉱山が開業してからは農業をやめ、閉山するまで鉱山で働く。独り暮らし。




