負けるな! ドングリ号6
「なんで止まるんやー。バックするんやー」
元作さんが前にもまして大声で叫ぶ。
だが……。
ガー、ガー、ガ、ガ、ガッ。
南側出口を目前にして、ドングリ号はピタリと停止してしまったのだった。
「おい、元作! 反対側を見るんや。こっちの出口も土砂で埋まっちょるぞ」
「ほんとや! これじゃあ、ドングリ号が止まるはずやわ」
「おれら、袋のネズミにされちしもうたんや」
ゴンちゃんの例えた袋のネズミなのか。
土木会社の社長の例えたカゴの中の鳥なのか。
いずれにせよ、トンネルの中に閉じ込められ、絶体絶命の危機に追い込まれたことはたしかである。
「なあ、元作や。ほかん列車に、えろう迷惑かけちまったんやなあ。やっばりあんとき、豊後森ん駅から引き返すべきやったのう」
お夏さんは後悔をしていた。
先頭に立ってドングリ号を走らせたのは、なにしろ自分である。リーダー的存在でもある老人は、今さらのように己を責めたのだった。
「そうかもな」
「大分駅ん中、警察もんがようきおったやないか。警察がやったんやろうのう」
「わからん。でもな、ドングリ号が止まりゃあ、オレらごらんとおりや。じきに穴を掘って、警察が捕まえに来るはずや」
「なあ、ゴンちゃんよ。なんとも情けねえことになったのう」
お夏さんはゴンちゃんの顔を見やった。
警察に逮捕されたとならば、警察官であった亭主に申し訳ない。あの世で合わせる顔がない。
「ああ……」
ゴンちゃんも元警察官である。情けなく思う気持ちは、やはりお夏さんと同じだった。
しばらくの間。
重苦しい沈黙が続き、だれもが魂が抜けたがごとく首をうなだれていた。
そんななか。
「なあ、しょぼくれちょってんしょうがねえ。どげすりゃ出らるんか、みなで考えちみようないか」
一番に気を取り直したのは、これまたお夏さんだった。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。




