負けるな! ドングリ号5
キィー、ギィー、ガガガ、ガー。
トンネル北側の出口を目前にして、ドングリ号がいきなりブレーキをかけ始めた。
「おー、どうしたんやあー」
通路を立ち歩いていた元作さんが叫んだ。両手で座席の背もたれをつかみ、両足をふんばっている。
清流駅を出発して以来。
ドングリ号がブレーキをかけたことは一度たりともなかった。鉄橋の爆破のときでさえブレーキはかけなかった。
それが今、急ブレーキをかけている。
ガガガ、ガー、ガー、ガッ、ガッ。
車輪とレールに金属音をきしませながら、ドングリ号は徐々にスピードを落としていった。そしてついには、前後にガクンと大きくゆれて止まった。
「こりゃあ、なんかあったんや」
元作さんは急いで窓を押し上げ、トンネルの進行方向をのぞき見た。
「土砂や! 線路が土砂でいっぱいやぞー」
「なんやとー」
ゴンちゃんも反対側の窓から顔をのぞかせる。
すると前方を、大量の土砂が隙間なくふさいでいた。
「クソー、こげなことするなんち」
「なにがなんでん止めようちしたんや。なんせドングリ号、走れんところをずっと走ってきたやろ。それでやけんや」
「これじゃあ、もう前には行けんど」
「ああ、とうてい無理や」
あきらめ顔の元作さんを見て、お夏さんが思いついたように言う。
「そんなら、もどりゃいいやないか」
「そうや、バックすりゃいいんや。すぐにバックさせるわ」
ドングリ号がバックのできることは、すでに清流駅の構内でわかっている。
ただ、住人たちは知らない。入ってきたばかりの南側の入り口までもが、このときダイナマイトで爆破されていたとは……。
「ドングリ号ー、下がれー、バックやー」
元作さんは窓から身を乗り出して、機関車に向かって大声で号令をかけた。
ギィー、ガッタ、ギィー、ガッタン。
ドングリ号が後退し始める。
こうして……。
トンネルの長さ、およそ一キロの距離を、バックで引き返すことになった。
ガッタン、ガタッ、ガッタン、ゴトッ……。
順調にバックを続けていたが、またしてもドングリ号がブレーキをかけ始めた。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。




