負けるな! ドングリ号4
線路敷で見張っていた従業員が、社長らが待機している空き地に向かって、両手を大きく振って合図を送った。
「行くぞ!」
社長が空き地を飛び出す。
従業員たちもあとに続き、腰の高さほどもある草をかき分けながら線路敷に向かった。
全員が線路敷に立ったところで、遠くの闇に小さな明かりが現れた。
「ぬかりはないな」
「はい、このとおりです」
従業員の一人が手にある箱を見せる。
「よし、隠れるんだ!」
社長の指示に、全員が線路敷脇の草むらにかけこんだ。
姿を隠すよう、みながじっと身を伏せる。
機関車の走る振動音が、線路敷のレールを伝わって響いてきた。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ……。
振動音が徐々に大きくなる。
ライトの明かりが近づいてくる。
星明かりの下。
機関車の前面が、遠目にもしだいに見てとれるようになった。
ガッタ、ゴット、ガッタン、ゴットン……。
蒸気機関車は闇を押しのけるようにして近づいてくると、男たちの前を一気に走り抜けた。
腹の底まで響く轟音。
顔面に吹きつける熱風。
それらが草むらに潜む者たちを圧倒した。
それからすぐに、蒸気機関車はトンネルに吸い込まれるようにして消えた。
社長がカウントダウンを始める。
「……三、二、一、爆破!」
ドッ、ドッーン。
トンネル上部にしかけられたダイナマイトが炸裂した。地響きとともに上トンネル部の山肌が一気に崩れ、土砂が木々をなぎ倒しながらすべり落ちてゆく。
こうしてドングリ号が進入したトンネル南側の入り口は、うず高く積もった大量の土砂でふさがれてしまったのだった。




