負けるな! ドングリ号3
ここは、とある土木会社。
たった今、一人の男が車を降り、速足で事務所にかけ込んだ。
この男、靴も作業服も泥で汚れている。
「社長、作業が完了しました。ほかの者たちは、すでに現場で待機をしております」
「そうか、ご苦労だったな。ところで今回の仕事、どうも気乗りがせんのだよ」
社長と呼ばれた男は、しぶい顔で椅子から立ち上がった。
「ですね、こんなこと」
「だが、やるしかないんだよ。親会社からの強い依頼なんでな。断りでもしたら仕事をほされ、のちのちこわいんでね」
どうやら鉄道会社の指図で、これから気のすすまない仕事をやるようだ。
「では行こう」
「はい、案内します」
二人はさっそく車に乗り込んだ。
十分もすると……。
車が山あいのデコボコ道を走るようになる。あたりには街路灯ひとつなく、明かりといえば車のライトのみであった。
「いくら相手が列車ジャックとはいえ、親会社の人たち、よくこんなことを考えつきますね」
「ほんと、まったくだよ。で、指示された作業に手ぬかりはないな」
「はい。北側出口には、イヤというほど土砂を詰め込みましたので。あとは列車が入ったら、進入口を爆破するだけです」
「それでカゴの中の鳥というわけだな」
社長は小さくうなずいた。
「社長、着きました。あそこです」
従業員が薄い闇を指さす。
そこには空き地があり、作業をすませて待機をしている従業員たちがいたのだった。
そのころ。
ドングリ号は国東半島の根っこのあたりを快調に進んでいた。星明かりに浮かんだ四方の山景色を楽しみながら……。
もうすぐ赤松峠である。
この赤松峠には、赤松地蔵トンネルと称される千メートルほどの長いトンネルがあった。先ほどの二人の男が車で向かった場所が、この赤松地蔵トンネルの南側入り口である。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ……。
ドングリ号はのんびりと走っていた。
怪しげな男たちの待ち受ける赤松峠に向かって……。




