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生きてきた証7

 蒸気機関車は走行音を響かせて、乗車ホームのない九番線へと向かった。構内までの広い線路敷を斜めに横断していく。

「おー、あっちに行くぞー」

「どうなってんだ?」

「このホームだって聞いてたんだがな」

「あれって、何番ホームだ?」

 警察、マスコミの面々が、蒸気機関車を目で追いながら口々に叫ぶ。

「一番向こうだぞー」

 新聞記者の一人がホームを飛び降り、線路敷を渡って隣のホームへと走った。

 それに負けてなるものかと、ほかの者たちもバタバタとあとに続く。

「危ないぞー」

 駅員が背後から大声でどなった。

 だが、その声はだれの耳にも入らない。他人が先を走るのを見れば、だれもがそれを追いかけるとしたものだ。

「行くぞー」

 KKKテレビ局のレポーターもカメラマンを引き連れ、いざ線路敷に飛び降りようとした。ところが己の持つマイクのコードに足をひっかけて、みごとホームから転落してしまった。

「ありゃー」

 線路敷に頭をしたたか打ちつける。

 それでも鍛え抜かれたマスコミ魂。落としたマイクを拾い、次のホームへとすばやく立ち上がった。

 だが、すでに遅し。

 蒸気機関車は構内を走り抜けており、ブルーの淡い光が駅から遠ざかっていく。そしてそれも、すぐに見えなくなった。

「おー、行ってしまった」

「オレ、写真も撮ってねえんだ。このまま帰ったんじゃ、編集長にどやされちまうよ」

「あー、オレもだよ」

 三番ホームのあたりで、報道陣たちの嘆きとため息がいっせいにもれた。

 このとき――。

 ただひとり八番ホームにいた駅長も、蒸気機関車の青い光をあぜんとして見送っていたのだった。


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