生きてきた証6
ホームから離れた下り側の分岐操作室。
そこには二人の男がいた。駅長室から飛んできた室長と分岐操作係の作業員だ。
「いいか、まちがえるなよ。整備用の九番線に行かせるんだぞ」
室長がソワソワしながら念をおす。
「まかせてくださいよ。で、うまくいったら約束の特別手当、かならずお願いしますよ」
「ああ、わかっておる」
「わたしゃね、とにかく金がほしいんで」
作業員の顔がニヤついている。
この男も、どうやら金で買収されているようだ。
ガタッ、ゴトッ、ガタン……。
かすかに列車の走行音がしてきた。
二本の鉄のレールを伝わり、それは操作室の床にまで響いた。
「時間がないぞ、急ぐんだ」
「なあに、じきにすみますんで」
作業員は自動制御装置をオフにすると、いくつかの手動切替レバーを引き、構内手前にある複数の分岐ポイントを強制的に切り替えた。
「これでたしかに」
作業は三十秒とかからなかった。
ドングリ号が走ってきた久大本線は、本来つながる三番線とはちがう九番線へと連結されたのである。
やがて長く伸びたライトの明かりが、二人のいる操作室前の線路敷を浮かび上がらせた。
ライトの明かりが強くなる。
それからすぐに……。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ……。
まっ黒な蒸気機関車が轟音を残し、分岐操作室の前を走り抜けていった。
あっというまである。




