生きてきた証5
ところかわって、大分駅。
たった今あの室長が、真っ青な顔で駅長室に飛び込んだ。
「失敗いたしました。つい今しがた、例の二人から報告がありまして、なぜか逃げられたと」
「バカヤロー、なにやってんだ!」
駅長が立ち上がってどなりつける。
「申しわけありません」
「で、あとどのくらいで到着するんだ?」
「十分たらずであります」
「すぐに手を打とう。なんとしてでも、ここで決着をつけなきゃならん」
「爆薬をしかける、そんな時間はもうありません。しかも、警察やマスコミの連中がおおぜい集まっております」
「ここは駅だぞ。そんなバカなことができるわけないだろ。頭を使うんだ、頭をな」
駅長がニタリと笑ってみせる。
「では、もう考えがおありで」
「ああ、たった今、思いついたんだ」
「で、どのような?」
「九番線にヤツらをさそい込め」
駅長は構内の線路図を広げた。
大分駅の乗車ホームは、上りと下りを合わせて八番線まである。そしてそれらとは別に、もうひとつ車両整備用の九番線がある。整備基地への引込み線で駅裏にもっとも近い側にあった。
「ですが、あそこは先日から工事中で、今は一部にレールがありません」
「だからいいんだろう」
「なるほど。暴走したあげくの転覆事故ですか。それに場所は、整備基地の手前ときていますね」
「そのとおりだ。解体にも手間がかからん。ちょうどいいではないか」
「まったくおっしゃるとおりで」
「いいか、だれにも気づかれんよう極秘のうちにやるんだぞ」
「もちろんです。駅手前の切替ポイントを操作して、強制的に九番線に向かうよう誘導します」
「いいだろう。時間がない、ただちにかかれ」
「承知しました」
室長は敬礼をしてから、すぐさま駅長室を飛び出していった。
「では、高みの見物とシャレこむか」
駅長はフテキな笑みを浮かべ、ひとり問題の九番線に向かったのだった。




