生きてきた証4
かたやドングリ号。
すさまじい轟音に、客車の中は一瞬にしてパニックとなった。
「なんや、今ん音は!」
元作さんは立ち上がって叫び、すぐさま窓を開けて顔をのぞかせた。
煙の匂いがかすかにする。
後方の鉄橋のあたりでは、黒煙が空に向かってモクモクと立ち昇っていた。
「ハッパん匂いやぞ」
ゴンちゃんが鼻をひくつかせる。
「ダイナマイトの爆発やったんや」
「そんではドングリ号を止めようとして。なら、鉄道会社のしわざやな」
「ああ、まちがいねえと思うわ。会社にゃ、工事用のダイナマイトがあるけんな」
「それにしてん、とんでもねえことをしやがるやないか」
「ドングリ号、かってに引込み線を出たやろ。それにずっと、信号を無視して走ってきたんや。そやから強引に止めようとしたんやろう」
「オメエが心配しちょったことやな」
「そうや。豊後森ん駅を出たら、こげなこともあるんやねえかとな」
「ワシらが乗っちょるの、アイツら知っちょるはずなんに……」
吉蔵さんが握りこぶしを震わせる。
「ひでえことをしやがって」
新吉さんも肩を震わせている。
「こうなりゃ、どこまででん行こうやねえか」
ゴンちゃんは鼻の穴を広げていきまいた。
火に油を注ぐとはこのことだろう。
栗原村住人たちの怒りは急上昇した。怒りのバロメーターが頂点で振り切れんばかりにゆれる。
「そうよ、こうなりゃ意地でん止まらんぞ。走れー、ドングリ号ー」
お夏さんは右腕を突き上げた。
「走れー、ドングリ号ー」
車内は走れコールの大合唱となる。
七瀬川はすでに大分川に合流していた。そのとうとうとした流れを脇に見ながら、ドングリ号は大分の町並みの中を走っていた。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。




