生きてきた証3
ドングリ号と鉄橋の距離、およそ百メートル。
長く伸びたライトの明かりが、鉄橋のアーチをにぶく照らし出した。
「来たぞ、来たぞ」
「いよいよだな」
先ほどの二人、河川敷にある大きな岩陰に身をひそめていた。
片方の男が点火スイッチに指をかける。
もう一方の男はカウントダウンの秒読みを始めた。
十、九、八……。
ドングリ号、鉄橋まであと五十メートル。
ライトの明かりで、鉄橋のアーチがライトアップされた。恐竜の骨格のような鉄骨のアーチ、その骨組みのひとつひとつが闇に浮かび上がる。
七、六、五……。
カウントダウンが続く。
ドングリ号が七瀬川鉄橋に進入した。ダイナマイトのエジキとなって川底に転落してしまうのか。
二、一、ゼロ!
男の指が点火スイッチを押す。
ドックァーン。
赤い火柱が上がるやいなや、爆風がまわりのものを大きくゆらした。
黒い煙がモウモウと立ち昇る。
黒煙は鉄橋を呑み込みながら河川敷一帯へと広がっていった。
「やったぞ!」
「成功だ!」
男たちは顔を見合わせ、互いの手を取り、喜び勇んで抱き合った。鉄橋はブイ字型に折れ、その先端は川底に突き刺さっていたのだ。
だが、そのとき。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ。
なぜか頭上で蒸気機関車の走行音がする。
続いて黒煙から、青い光につつまれた機関車が現れた。さらに客車も……。
「なんで落ちねえんだ?」
「わかんねえ。わかんねえが行っちまった」
二人は口をあんぐりと開けたまま、蒸気機関車の遠ざかる足音を聞いていた。




