生きてきた証2
ドングリ号は平地を走るようになっていた。
広がる田畑の間に、ちらほらと民家の灯りも見える。
大分駅までおよそ二十キロ。
すぐそばを大分川の源流――七瀬川が秋の星座を川面に映して流れている。
七瀬川が大分川と合流する少し手前。そこには二百メートルほどの七瀬川鉄橋が架かっており、鉄骨のアーチや橋げたが、河川敷、そして川面に、うっすらと影を落としていた。
深夜だというのに……。
鉄橋のほぼ中央で、二人の男がせわしそうに作業をしている。
「この匂いがなんともたまんねえや」
灰色の作業服に作業帽をまぶかにかぶった男が、手にしたダイナマイトの束にほおずりをした。
「オレもさ。頭の芯までしびれてくるぜ。おい、赤のコードをこいつに接続させるんだ」
もう一人の男は、なにやら箱のようなものをいじくっている。
先ほどの男がペンチを器用に使い、赤いコードを起爆装置に接続した。
「どうだい、こんなもんで」
「カンペキだ。次は白のコードをやってくれ」
二人はなれた手つきで作業を進めていくと、最後にダイナマイトの束を枕木に取りつけた。
「これで橋はポッキリ、まっぷたつだぜ」
「川にドボンだな」
「うまくいったら特別ボーナスだってよ」
「楽しみだぜ」
この怪しげな二人、どうやらあの室長の指図で動いているようだ。
「スイッチはオレに押させろよ」
「いや、オレが押す」
二人が点火装置をうばい合う。
ダイナマイトを爆破させることに至上の喜びを感じる、そんな二人が選ばれていたのだ。
ブゥオー。
汽笛の音がかすかにした。
「おっ、来たぞ!」
「急ぐんだ」
男たちは鉄橋を走り抜けると、土手を転がるようにかけ降り、岩だらけの河川敷に向かった。
それからまもなくのこと。
遠くの闇からレールを伝い、蒸気機関車の走行音が聞こえてきた。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ……。
レールに響く振動音が徐々に大きくなる。それとともに、遠くの闇に光の点――ライトの明かりも見えてきた。
ドングリ号は知らない。
ワナが待ち受けていることを……。
ドングリ号は走り続ける。
危険な七瀬川鉄橋に向かって……。




