走れ! ドングリ号7
駅長室の電話がやかましく鳴った。
『なに! 運転士が客車に乗ってるだって? いったいどういうことなんだ。……なんだと、手を振って笑っていたというのか。……わかった』
室長は受話器をもどすと、すぐさま駅長に向き直って報告した。
「列車ジャックにまちがいないようであります。ですが、ただの列車ジャックとは少しばかりちがうようでして」
「どういうことなんだね?」
駅長がけげんな目で室長をにらむ。
「恨みによる乗っ取り、栗原村の住人らの逆恨みによるものだと思われます」
「栗原村? あの列車の引込み線のある村だな」
「そうであります。昨日をもちまして運行廃止にしたのは、駅長もご存知だと思いますが」
「ああ、もちろんだ」
「おそらく合理化に逆恨みして、こんなバカげたことをしでかしたんだと思われます」
「そんなことで列車を乗っ取るとはな。ヤツら、鉄道をだれのもんだと思ってるんだ」
「はい、まったくそのとおりでして」
「ところで運転士が乗ってるそうだが、どうして止められんのだ?」
「どうやら運転士も、列車ジャックの一味のようでありまして」
「なんだと! で、その運転士、いったいどういうヤツなんだ?」
「臨時社員であります。あの引込み線だけの運行を特別にまかせていたんですが」
「臨時とはいえ、わが社の社員だろう。それがどうしてそんなことを?」
「その者は栗原村の住人であります。それで、おそらく列車ジャックの一味に……」
「クソー、ワシの顔に泥を塗るようなことをしやがって」
「そっこく、ヤツをクビにいたします」
室長は得意のもみ手をしながら、駅長に向かって何度も頭をペコペコさせた。
「マスコミがじきに集まってくるぞ。社員に列車を乗っ取られたことがわかってみろ、わが社の信用はガタ落ちだ。なんとしてでも止めるんだ」
駅長の怒りは頂点に達していた。
目の玉は真っ赤に充血し、くちびるはワナワナと震えている。
「いい考えがございます」
室長は申し出てからニタリと口元をゆがめた。
「なんだ、早く言ってみろ」
「脱線させればいいわけでして」
「脱線か、なるほどな。なんなら工事用のダイナマイトを使うか? 転覆させることもできるぞ」
駅長の口元にフテキな笑みが浮かぶ。
「二十名ほど乗っております。転覆となれば、かなりの死傷者が出ると思われますが」
「ヤツらは列車ジャックなんだぞ。かまわん、吹っ飛ばしてしまえ」
「承知いたしました」
「いいか、極秘のうちにやるんだぞ。事故に見せかけな」
「この仕事にうってつけの者がおりますので、さっそく手配いたします」
室長が駅長室を飛び出していく。
駅長は部屋の隅に飾ってある模型の蒸気機関車の前に歩み寄った。それから模型をつかむと頭上に振りかぶり、それからおもいきり床にたたきつけた。
大きな音が響いて、蒸気機関車はこなごなにくだけ散った。




