お別れの夜2
戦後まもなくのこと。
栗原村で金の鉱山が開業されるにともない、採掘した金鉱石を輸送するための鉄道が村に建設された。栗原村にもっとも近い豊後森駅からの引込み線で、その距離はおよそ十キロほどであった。
村には新しく駅も建設された。
名前は清流駅。
この清流駅を拠点として、さらに鉱山に向かって貨物専用の軌道敷が敷かれ、坑道入り口そばには金鉱石を貨物車に積み込む積載所が建てられた。わずか五百メートルほどの短い距離ではあったが、軌道敷は輪となって循環しており、終着駅で方向転換のできない機関車を先頭にする役割も果たしていた。
そして鉱山労働者にと、多くの出稼ぎの者たちが栗原村に流れ込んできた。かくして元作さんも、そのうちの一人だったのだ。
ところが元作さん、中学を卒業してまもないこともあって、なかなか鉱山の仕事につけないでいた。そのうち持参していた金も使い果たし、野良犬のような浮浪者同然となってしまう。
そんな窮地を救ってくれた人物こそ、当時の栗原村交番の駐在員――お夏さんの亭主で、知人の鉄道会社の者に就職口をかけあってくれたのだ。
鉄道会社に就職後は、見習いから車掌、そして機関士から運転士となった。
それが十年ほど前。
鉱山は金鉱石が堀り尽くされて閉山となる。
このときほとんどの労働者が栗原村を去っていくなか、元作さんはそのままその地に残った。骨をうずめるべく一生の居場所となっていたのだ。
その後、六十歳で一度は定年を迎えたが、それからは同じ会社の臨時社員として、引き続きドングリ号の運転士を任されてきた。