走れ! ドングリ号2
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
ドングリ号がクヌギ林を抜けた。
車窓の外に見とおしのいい景色が広がり、遠くの畑が薄闇の下で眠っている。
「豊後森だぞー」
元作さんの声に、みなが顔を上げて車窓の外に向けた。
広がる畑の、さらなる向こうに明かりが見える。
そこは豊後森の町で、家々の明かりがチラチラとゆれていた。
「なあ、元作。ドングリ号は豊後森で止まるんかのう?」
お夏さんが気になるふうに聞いた。
「そりゃそうや。ドングリ号の走れるんは、こん引込み線の中だけやからな。それより先を走ったら、ほかん列車と衝突するやないか」
「たしかにそんとおりやな。けど、もうちっと先まで乗っちみてえち思わんか?」
ドングリ号に乗るのもこれが最後である。お夏さんはなんとも心残りといった表情をした。
「豊後森までかあ。せっかくやけん、オレもその先に行っちみてえわ」
向かいの席の新吉さんも残念そうである。
「ちょっと心配やが……」
元作さんは少しばかり考えていたが、二人の気持ちに背中を押されたようだ。
「まあ深夜やけん、この時間なら走りよる列車も少ねえやろうし」
「なら、行っちみようやないか」
「じゃあ、大分ん町までな。どうせドングリ号、明日のうちに、大分駅まで連れて行くことになっていたんで」
「そうや、一足先にと思やいい。そんでは、みんなの意見も聞いちみらんとな」
お夏さんはさっそく立ち上がると、ほかの席の者たちを見まわして声をかけた。
「みんなあ、ちょっと聞いちくれ。ドングリ号に乗るんも今夜で最後や。それでこれから、大分ん町まで行こうち思うんやが、どうやろうかのう?」
通路をはさんだ座席には冬次郎さんとゴンちゃんが座っていた。
「おう、そうしちくるんとありがてえ。まだちっとしか飲んどらんけんな」
すぐさま冬次郎さんが、酒の入った湯呑茶碗をかかげてみせた。
「そうやぞ。だいいち乗ったばかりやねえか」
ゴンちゃんも追うように言う。
斜めうしろの座席には、吉蔵さん、菊さん、綾乃さん、弥助さんの四人がいる。
「ああ、ここにおるワシらもや」
吉蔵さんが代表して返事をした。




