ドングリ号12
「おい、元作!」
ゴンちゃんが客車の中をのぞき込んで言う。
「さっきはな、ワシらなんも号令かけとらんのに、客車んドアを開けたやないか。そんことも、こいつはひょっとしち……」
「ひょっとしたらっち?」
「不思議ちいうなら、そんことも不思議やねえか。それでドアを開けたんは、ドングリ号んヤツ、ワシらを乗せち走りてえんやねえか、そう思うてな」
「そうやなあ。ドアを開けるなんち、いかにも乗れち言いよるみたいやしな。それになんたち、ドングリ号に乗れるんは今夜で最後やからな」
「なあ、ためしちみようやないか。そうすりゃ、それもわかることやろ」
けど耳もねえのになあ……と、お夏さんはつぶやいてから、目の前の車体に向かって話しかけた。
「なあ、ドングリ号。オメエ、ウチらを乗せち走りてえんか?」
ブゥオー。
ドングリ号がすぐさま返事を返してくる。
「まちがいねえようやな。そやけど、なんとも不思議やのう」
このような不思議な能力が、いつどのようにして備わったのかはわからない。ただ、ドングリ号は自らの意思を持っている。その意思によって、こうして今夜ここに導かれた。
今、村人のだれもがそう信じて疑わなかった。
そして心の底から思った。今夜で最後となるひと晩、ドングリ号と共に過ごしたいと……。
「みんなあ! 早よう乗ろうやないか」
お夏さんの呼びかけに、住人たちは一夜の旅にと客車に乗り込んだのだった。
通路をはさんで四つずつある対面座席が、栗原村住人十八名で埋まってゆく。
最後に元作さんが座る。
それを見届けたかのように、これまた乗降ドアがひとりでに閉まった。
「オメエ、運転しねえでいいのか?」
お夏さんが元作さんに問う。
「オレな。一回でんいいけん、お客として乗っちみたかったんや」
「そんでは、だれが運転するんや?」
「心配いらんて。ドングリ号んヤツ、号令を聞いち走るんやから」
「そうやったな。それにしてん、まるで神様がのり移ったみたいや。まったくもって不思議やのう」
「ああ、ほんと不思議や。こげな夢んようなことがあるなんちなあ」
元作さんはよほどうれしいのだろう。
公民館のときとはうって変わって、見ちがえるほど晴れ晴れとしている。
それは元作さんだけではない。
お夏さんも。
スナばあも。
鶴じいも。
ほかの者たちも……。
みなが十歳も二十歳も若返ったようだった。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。




